S系課長のアメとムチ~恋はお叱りのあとで~

「安井は、総務が引き取ってくれるらしい。」

ビールを一口飲んだだけで、部長はいきなり本題に入った。
安井萌は、いずみが指導係で手を焼いていた新入社員だ。
愛想はよく、客の受けは悪くはないが、仕事のやる気はほぼ感じられない。
いずみだけでなく、周りの社員も持て余していたから、俺は異動してきてすぐに、部長に安井を異動させるように進言していた。

「総務だと、支社長付きの秘書ですか?年末で一人退職して、手が足りてないみたいですし。」
「まあ、そんなところだろ。いずれにせよ、雑用係からスタートだな。」
「元々内勤希望だったようだし、来客対応なら彼女には案外向いてるかもしれません。」
「もったいないな。せっかく、松岡が頑張った分が無駄になった。」
「こればっかりは、仕方ないです。」

部長は、自分が引き取ってでも安井を何とか育てるつもりでいたらしいが、それを止めたのは俺だ。
正直、部長には他にやるべき仕事が沢山ある。客観的に見て、無駄になりそうな仕事をさせる余裕はない。

部長は一つため息を落としてから、再び口を開いた。

「人事からは、安井の代わりに元うちにいた木村を戻すと言われた。」

木村は入社八年目。二年前に違う支社に異動になっていた。

「本人が希望を出したらしい。何でも結婚相手がこっちにいるとかで、相手の仕事の都合とか、色々あるんだろ。」
「そうですか。木村なら何の問題もないですね。」

木村は俺も一緒に働いた事がある。
真面目で丁寧な仕事をする男だ。

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