S系課長のアメとムチ~恋はお叱りのあとで~
「俺が謝って済む話ならいい。会社の信用に関わる問題だ。自信が無いなら俺以外でもいい、とにかく誰かに確認してもらえ。それから…」
彼と壁に挟まれたまま、お説教は延々と続いた。
体勢だけは流行の「壁ドン」というやつだが、まるで色気はない。
ただ単に私を逃すまいとして壁に突き立てられた腕は、緩む気配はない。
「来月には俺の担当をお前に引き継ぐ。いつまでも浮かれた気分で仕事してる奴に、安心して任せられない。」
そして、彼の言うことはどれもこれも正しくて私に反論の余地はない。
彼の言うように、私はまだ学生気分が抜けていないのかもしれない。
途中あまりに自分が情けなくなって、涙がでそうになったけれど、必死に我慢した。
夜10時を過ぎたオフィスには、私たちしかいない。
どちらかと言えばイケメンの部類に入るだろう彼と二人っきりなのに、甘い雰囲気の欠片もなく。
お説教が終わった時には、とっくに終電の時刻を越えていた。
やっと解放された私(とは言っても、長時間の説教でマックス凹み中)は力なく鞄に私物を詰めて帰る支度をする。
「お疲れさまでした。今日は本当にすみませんでした。」
頭を下げた私に降り注いだのは意外な言葉だった。
「電車ないだろ?車で送ってく。」
目の前の鬼が、急に天使に見えた。
こういう時のギャップというのは、本当にずるいと思う。