S系課長のアメとムチ~恋はお叱りのあとで~
「すみません。ありがとうございます。」

何と言ったらよいのか分からずに、とりあえず詫びと礼を言う。
部長は、また満足げに笑った。

「俺が、気づいてないとでも?」
「いや、かなり気をつけていたつもりだったので、正直驚きました。」
「甘いな。逆に、松岡に厳しくしすぎだ。」
「そんな、分かりやすかったですか?」
「いや、多分俺しか気づいてないだろ。」

そんな会話をしながら、俺の心の中は恥ずかしさと申し訳なさで一杯だった。
そんな様子に気づいたのか、部長が再び話し始める。

「別に、松岡を引き留めたのは、佐藤の為じゃない。四月からまた新人が二人来る。松岡にまた指導係を任せようと思って。失敗したままじゃ、後味悪いだろ。」

そう言って笑った課長の顔は、すでにいたずらっ子ではない、頼れる上司の顔になっていて、俺は自然と頭を下げていた。

「ありがとうございます。色々と考えていただいて。」
「ま、楽しみにしてるよ。結婚式のスピーチは俺じゃなくて、次長に頼めよ。あいつ、そういうの得意だから。あと、分かってると思うけど、今後のこともよく話をしておけ。別支社への異動は免れても、夫婦で同じ課は無理だぞ。」
「わかりました。」

色々、盛りだくさんな忠告をもらってから、あとは仕事の話になった。
真剣でありながら、楽しそうに仕事の話をする部長を前に、俺もいつかこんな風になれたらと思う。

仕事が出来る以前に、この人は周りがよく見えている。そして、部下の一人一人に、ちゃんと愛情を持っているのが分かる。
だから、安井のことも、本当は最後まで見放したくはなかったのだろう。

俺は、まだまだ足りない。
そう思った夜だった。
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