S系課長のアメとムチ~恋はお叱りのあとで~

彼の車の助手席に座ると、目の前にかわいいクマのぬいぐるみが置いてあった。

こんなところにも、ギャップが!
と思いつつ、私は過去の経験から瞬時に察した。
おそらく、彼の趣味ではなく、きっと彼女が置いたのだろう。

「助手席乗っちゃって良かったですか?彼女に怒られません?」

私が気を遣って言うと、彼も私の視線の先にあるクマに気が付いた。

「ああ、それ。元カノのだ。先月別れた。」

私の心配をよそに、素っ気なく言われた。それはそれで問題だ。

「そうですか。今日は何だかいろいろすみません。」

一見すると分からないけど、意外と傷心だったかもしれないので、一応謝っておく。

「ああ、別にいい。もう、完全に吹っ切れてるから。クマ、欲しいなら持って帰っていいぞ。どうせ捨てるから。」

そう言って、彼はまた少し笑った。
こんな少女趣味のクマは要らないと言い出せず、空気を読んで仕方なくお礼を言って鞄へと仕舞う。
< 6 / 56 >

この作品をシェア

pagetop