【短編】かき氷
「お会いできて良かった」



 父親から発せられた意外な言葉に私は、おもわず顔をあげた。



「あれから七年。私も考えたんです。あの子もいつか、私達が本当の両親でないことを知る。その時に、あの子はどういう気持ちになるんだろうか?」



 私にそう話した父親がにっこりと優しい笑顔で続けた。



「そんな日が来る前に、本当の母親の元に返してあげるべきなんじゃないんだろうか?って」



 その時、母親と男の子が河川敷の階段を上がって来るのが見えた。



「この話しはまた後日。私はその方向で考えています。後は妻とあの子に話すだけです」



 私にそう言って、父親は私の横を抜け、男の子に何か言いながら頭を撫でた。



 私にはその話し声は聞こえなかった。



――では、また



 父親がこちらを振り返り、声を出さずに口を動かした。



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