【短編】かき氷
 十年前の夏、私は人生最大の選択をせまられていたのだ。



「麻美(あさみ)!もう決めたのか?」


「……」



 ダイニングテーブル越しに低く強い声で父に言われた私は、黙ったままだった。



「黙っていては分からないじゃないか!もういい加減に決心しなさい!!」


「お父さん!この子も、この子なりに考えているんだから、声を荒げないで」



 温厚な母が間に入ってくれた。



 この時の私は守られる権利なんてなかったのに……



「ごめん、お父さん。もう少し考えさせて」



 私はそう言って、リビングを出て二階へと上がった。



 部屋の扉を閉めると、クーラーで冷やされた部屋が気持ち良かった。



 私は小さなベッドに近づくと、そこで気持ち良さそうに眠っている、我が子の頬を、人差し指で、優しく撫でた。



「ごめん……、ごめんね……」



 そう言葉にした途端、涙が溢れて止まらなかった。



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