【短編】かき氷
 私の思考が思い出に捕われている間に、いつも回っている町内に到着した。



 ここは駅から近く、周辺に小学校から大学まであって、絶好の商売場所だ。



 いつもの公園前に停車させようとすると、すでに同業が陣取っていた。



「寝坊はするもんじゃないな」



 私は独りそう呟くと、二番手にしている場所へと向かった。



 二番手にしている場所は、私が十年前に住んでいた町だ。



 昔からある商店街と、最近建てられたマンション街があるおかげで人通りが多い。



 でも、そこに私が住んでいた家は、もう、無い。



 私は河川敷に軽トラックを停めると準備を始めた。



 太陽が私の真上まで昇り、アスファルトの地面からは熱気がたちこめる。



 頬に流れ落ちる汗を首にかけたタオルで拭きとり、白のTシャツの袖を捲りあげた。


 辺りではジジジジ、やらツクツクボーシ、やらとせみの鳴き声が三百六十度響きわたる。



 こりゃ、いつもより忙しくなりそうだな。



 私は流れる汗を、もう一度タオルで拭きながら、そう思った。



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