【短編】かき氷
「七年前、電話をくれたの覚えてるかな?」



「は……い」



 私は父親の顔も見ず、答えた。





――よく覚えている。



 移動販売を始めた十九の時の七夕の日に私は願いをこめた。



 自分の稼ぎが良くなった時、私はあの子を取り戻したい。



 そう願いをこめた。



 そして次の年、ちょうど七年前の今日、七月七日だ。



 仕事も軌道にのり、自分と子供一人ぐらいは養っていけるぐらいになっていた私は、電話をした。



 電話に出たのは、今、目の前にいる父親だった。



 私は自分が子供一人を育てられる稼ぎがあることを話し、健太を返してほしいと言ったのだ。



 もちろんそんな話しは、受け入れてもらえなかった。



「あの子は、もううちの子なんです」



 ただ一言そう言われた私は、黙って電話をきった。



< 9 / 14 >

この作品をシェア

pagetop