さくら駆ける夏
出発準備
「これでよし、と」
部屋で浴衣に着替えたあと、少しだけ化粧を直した私は、涼君の待ってくれている廊下に出る。
「お待たせ」
涼君は私を見ると、ちょっと驚いたような表情で、軽く「あっ」と言った。
このリアクションはどう捉えたらいいんだろうかと、一瞬戸惑う私。
でも、すぐに笑顔になって言ってくれた。
「よく似合ってるよ。色合いが、さくらちゃんのイメージにぴったり」
「あ……ありがと」
真顔で褒められたので、かなり照れる。
私が着ているのは、シンプルな模様が入っている、淡いピンク色をした浴衣だ。
帯の色と髪飾りもピンク系にして、統一感を出してみた。
涼君の言う、私の「イメージ」っていうのはきっと、「さくら」っていう名前のことだろう。
桜といえば、ピンクのイメージが強いし。
私としては、そこを特別意識して選んだわけではなかったんだけど、こんなに褒めてもらえるなら、これにしてよかったぁ。
「それじゃ、行こっか」
そう言う涼君は、まだ私の浴衣に視線を向けてくれている。
ほんと、これを選んでよかったよ~。
でも、あんまり見つめられるのも恥ずかしいけど。
私たちは、玄関へと向かった。
「あれ? 下駄や草履じゃないの?」
靴を履こうとしたとき、涼君が声をあげた。
「あ……!」
しまった!
下駄も草履も、自宅に置いてきた……。
うう……私って何でいつも、どこか抜けてるんだ……。
振り返ると、ここ二日間だけで考えてみても、ドジをかなりの回数、やらかしている。
本間さんにスマホを盗まれたのに返してもらうまで気づかなかったり、おじいちゃんに言われた戸棚の色を間違えたり。
本間さんにホイホイついていった無用心さも、どうかと思うしね……。
本間さんに言われるまで左ひじの特徴的なアザに気づかなかったことは、見えにくい位置だからしょうがないということにしておこう。
でも、落ち込むなぁ……はぁ……。
涼君には申し訳ないけど、また自宅に戻らなくちゃ。
ところが、涼君はなぜか急に思案顔になって「少しだけ待ってて」と言うと、リビングに消えた。
「さくらちゃん、草履を忘れたんだね。どんまい!」
美優さんの声がしたので、私は振り向く。
涼君の後ろから、美優さんが歩いてきているのが見えた。
「その下駄箱ん中に、あたしのがあるから、よかったら使ってよ。パッと見、サイズはそんなに違わないはずだし」
「え? いいんですか? じゃなくて……いいの?」
うっかり敬語を使ってしまったので、すぐさま訂正する。
そっか、涼君……美優さんに伝えてきてくれたんだ。
ううう、申し訳ない……。
「もちろん、問題なし!」
美優さんは、快諾してくれた。
「ありがとう!」
美優さんと涼君の気遣いと優しさに、本当に頭が下がる思いだ。
「涼君もありがとうね」
「いえいえ、どういたしまして」
私は二人に感謝しつつ、下駄箱にあった美優さんの草履を借りることにした。
履いてみたところ、若干大きいような気はしたものの、違和感があるほどではなかったので、そう伝えた。
「よかったぜ。それにしても、浴衣よく似合っててかわいいよ!」
「ありがとう」
美優さんにも褒めてもらえて嬉しかった。
「ん? 涼は、さくらちゃんの浴衣姿に夢中かな。お邪魔虫だったね、すぐに立ち去るよ。ごめんごめん」
「俺たちはもう行くから、母さんも余計なことは言わずに、テレビに戻ってていいよ。草履はありがとう」
涼君も少し照れてるのかな、美優さんをリビングの方へ押している。
私も相当恥ずかしい。
でも、ほんとに涼君が見とれてくれてるのなら、すごく嬉しいな。
また、涼君が美優さんにちゃんとお礼を言ってくれているところも、強く心に響いた。
涼君自身は、特に何をしてもらったわけでもないのに。
ほんとにいい人だ……。
「こら、涼。分かったから押すな~。それじゃ、二人とも気をつけてね!」
「は~い、いってきます」
私が言うと、涼君も美優さんに「それじゃ、いってきます」と言ってから、靴を履く。
そして、私たちは外へ出た。
部屋で浴衣に着替えたあと、少しだけ化粧を直した私は、涼君の待ってくれている廊下に出る。
「お待たせ」
涼君は私を見ると、ちょっと驚いたような表情で、軽く「あっ」と言った。
このリアクションはどう捉えたらいいんだろうかと、一瞬戸惑う私。
でも、すぐに笑顔になって言ってくれた。
「よく似合ってるよ。色合いが、さくらちゃんのイメージにぴったり」
「あ……ありがと」
真顔で褒められたので、かなり照れる。
私が着ているのは、シンプルな模様が入っている、淡いピンク色をした浴衣だ。
帯の色と髪飾りもピンク系にして、統一感を出してみた。
涼君の言う、私の「イメージ」っていうのはきっと、「さくら」っていう名前のことだろう。
桜といえば、ピンクのイメージが強いし。
私としては、そこを特別意識して選んだわけではなかったんだけど、こんなに褒めてもらえるなら、これにしてよかったぁ。
「それじゃ、行こっか」
そう言う涼君は、まだ私の浴衣に視線を向けてくれている。
ほんと、これを選んでよかったよ~。
でも、あんまり見つめられるのも恥ずかしいけど。
私たちは、玄関へと向かった。
「あれ? 下駄や草履じゃないの?」
靴を履こうとしたとき、涼君が声をあげた。
「あ……!」
しまった!
下駄も草履も、自宅に置いてきた……。
うう……私って何でいつも、どこか抜けてるんだ……。
振り返ると、ここ二日間だけで考えてみても、ドジをかなりの回数、やらかしている。
本間さんにスマホを盗まれたのに返してもらうまで気づかなかったり、おじいちゃんに言われた戸棚の色を間違えたり。
本間さんにホイホイついていった無用心さも、どうかと思うしね……。
本間さんに言われるまで左ひじの特徴的なアザに気づかなかったことは、見えにくい位置だからしょうがないということにしておこう。
でも、落ち込むなぁ……はぁ……。
涼君には申し訳ないけど、また自宅に戻らなくちゃ。
ところが、涼君はなぜか急に思案顔になって「少しだけ待ってて」と言うと、リビングに消えた。
「さくらちゃん、草履を忘れたんだね。どんまい!」
美優さんの声がしたので、私は振り向く。
涼君の後ろから、美優さんが歩いてきているのが見えた。
「その下駄箱ん中に、あたしのがあるから、よかったら使ってよ。パッと見、サイズはそんなに違わないはずだし」
「え? いいんですか? じゃなくて……いいの?」
うっかり敬語を使ってしまったので、すぐさま訂正する。
そっか、涼君……美優さんに伝えてきてくれたんだ。
ううう、申し訳ない……。
「もちろん、問題なし!」
美優さんは、快諾してくれた。
「ありがとう!」
美優さんと涼君の気遣いと優しさに、本当に頭が下がる思いだ。
「涼君もありがとうね」
「いえいえ、どういたしまして」
私は二人に感謝しつつ、下駄箱にあった美優さんの草履を借りることにした。
履いてみたところ、若干大きいような気はしたものの、違和感があるほどではなかったので、そう伝えた。
「よかったぜ。それにしても、浴衣よく似合っててかわいいよ!」
「ありがとう」
美優さんにも褒めてもらえて嬉しかった。
「ん? 涼は、さくらちゃんの浴衣姿に夢中かな。お邪魔虫だったね、すぐに立ち去るよ。ごめんごめん」
「俺たちはもう行くから、母さんも余計なことは言わずに、テレビに戻ってていいよ。草履はありがとう」
涼君も少し照れてるのかな、美優さんをリビングの方へ押している。
私も相当恥ずかしい。
でも、ほんとに涼君が見とれてくれてるのなら、すごく嬉しいな。
また、涼君が美優さんにちゃんとお礼を言ってくれているところも、強く心に響いた。
涼君自身は、特に何をしてもらったわけでもないのに。
ほんとにいい人だ……。
「こら、涼。分かったから押すな~。それじゃ、二人とも気をつけてね!」
「は~い、いってきます」
私が言うと、涼君も美優さんに「それじゃ、いってきます」と言ってから、靴を履く。
そして、私たちは外へ出た。