さくら駆ける夏
恋の危機
次の日の朝、涼君と私は朝食後、病院へと向かった。
そして、病室でおじいちゃんと話しながら、明日朝の退院まで置いておくモノと、もう病院では使う予定のないモノとを仕分けする。
その後、おじいちゃんがもう使わない荷物を自宅へと持ち帰った。
もちろん、涼君にも手伝ってもらって。
荷物は思っていたよりも少なかったので、一回の往復で済ませることができた。
それから、おじいちゃんに挨拶をしてから病室を後にすると、以前入ったオムライスのお店で早めの昼食をとった私たちは、いったん清涼院家へと引き返すことにした。
涼君が友達と会う約束をしている時刻まで、まだ少し時間があったので。
友達……どんな人なんだろ。
また気になってきた。
でも、聞き出す勇気が湧いてこない。
そんなことを聞くと、きっと鬱陶しく思われちゃうだろうし。
しばらく、涼君の部屋でおしゃべりをしていると、突然「そろそろ行かないと」と涼君が言った。
私は「気をつけてね」と笑顔で言ったけど、内心寂しさでいっぱい。
ちょっと一緒にいられない時間が出てくるだけで、こんなに寂しがっていてはいけないと思うんだけど……。
それに……友達が男子なのか女子なのか、やっぱりどうしても気になっていたのも、こんな気持ちになっている理由の一つかもしれなかった。
「それじゃ、行ってくるね」
連れ立って廊下に出たあと、元気よく言う涼君。
「あ、あの……」
勇気を懸命に振り絞って、私は言った。
「ん? どうかした?」
「えっと……その……」
うう……言いにくい。
「涼君のお友達って、どんな人?」
「ああ、今日会うヤツ? 同じクラスのヤツだよ。あっちはサッカー部じゃなくて卓球部だけど、同じ運動部ということで、仲がいいんだよ」
ヤツって言ってるから、きっと男子だろう。
かなりホッとした……。
「引き止めてごめんね。楽しんできてね。いってらっしゃい!」
心に引っかかっていたことがなくなって、私は明るく言うことができた。
「ありがとう、行ってきます!」
そう言うと、涼君は階段を下りていった。
私は、ひとまず自分の部屋に戻ることにする。
うーん………。
暇だ……。
部屋に戻ったけど、特に何もすることがない。
沙織や仲のいい友達に連絡しようかとも思ったけど、「今から遊ぼう」とか言うのはいきなりすぎて、迷惑だろう。
何気なくパソコンを立ち上げて、何とはなしにニュースを見ていたけど、すぐに飽きてしまった。
そうだ、ボウリングにでも行こうかな。
私はスポーツ全般にだいたい、得意でもなく苦手でもなくという微妙な感じだったけど、ただ一つ、ボウリングだけは自信がなくもなかった。
アベレージも200以上はあるので。
一人で行くのは寂しすぎるけど、「練習だから」と割り切って、以前行ったことがあるボウリング場へと向かったのだった。
ボウリング場に着き、私は5ゲームほどプレイすることにした。
日曜ということもあり、けっこう人が多い。
一人でプレイするのは私だけのようだったので、恥ずかしくもあった……。
肝心のゲーム内容のほうはというと、なぜか不調で、1ゲーム目も2ゲーム目も150ちょっとのスコアに終わった。
今日は冴えないなぁ……。
休憩を挟みながら、3ゲーム目、4ゲーム目をしたところ、徐々に調子が上がってきて、4ゲーム目は180まで出た。
ラストの5ゲーム目を始める前に休憩していると、涼君の声が聞こえたような気がした。
見回してみると……。
3レーンほど向こうに、涼君がいた!
あれ?
水族館とカラオケって言ってなかったっけ。
予定変更したのかな。
間に2レーン挟んでいて、そこにも何人もの人がいたせいか、涼君はこちらには気づいていないみたいだった。
一人で来てるのを気づかれたら恥ずかしいな……。
5ゲーム目はやめておいて、こっそり出ようと思った私だったが、涼君と一緒にいる三人の人を見て、ドキリとして動きが止まった。
一緒に行く友達は一人だけって言っていたように思うんだけど、そのレーンには涼君以外に、男子が一人、女子が二人いることに気づいたのだった。
女子は二人ともかわいく見えた。
ショックで、頭がうまく回らない。
いや、涼君があの二人のうちどちらかとお付き合いしているわけじゃないとは思うんだけど、それでも心が痛んだ。
涼君がスペアを取ったとき、一緒にいる男子だけでなく、女子ともハイタッチしてるところなどを見ると………。
もはや私は、のん気にボウリングを続けていられない心理状態だった。
私は気づかれないように注意して、静かに帰り支度をすると、足早にボウリング場を後にした。
外はいつの間にかどんより曇っていたのに、暑さは相変わらずだった。
夏のお天気は変わりやすいから、傘を持ってくればよかったかな。
私はそのまま、逃げ出すように帰途に着いた。
どうにか雨には降られずに済んだけど、心の中は土砂降りだ。
清涼院家に帰ってきて自分の部屋に入ると、涙が出てきた。
ふられたわけではないはずなのに、ふられた気分だ。
そして、自分の中での、涼君の存在の大きさを改めて思い知った。
今日はもう何をする元気もないから、ここでじっとしてよう。
私はベッドに入って、ごろんと横になった。
誰かの声がした気がして、私はハッと目を覚ました。
泣き寝入りしていたみたい……。
「ご飯だよ~!」
美優さんの声だ。
私はすぐにリビングに向かった。
リビングには涼君もいた。
「ただいま~! さっき帰ってきたよ。あれ? さくらちゃん、どうしたの? 何だか顔色が良くないよ」
涼君は鋭いなぁ……。
「気分でも悪いのかい?」
光定さんも心配そうに聞いてきてくれた。
美也子さんも美優さんも心配してくれたので、私は「大丈夫。ちょっと疲れただけです」と言っておく。
心は大丈夫じゃないけど……。
私はつとめて明るく振舞いながら晩御飯を済ませると、お皿洗いを手伝ってから、自分の部屋へと戻った。
「ちょっといいかな?」
自分の部屋に戻ってすぐ、ノックの音と共に涼君の声がした。
「あ、うん、いいよ」
すぐ答えてドアを開けたら、涼君が心配そうな顔をして入ってくる。
「さくらちゃん、何かあったの?」
私って、そんなに感情が顔に出ちゃってるんだ……。
「もし、身体に不調があるのなら、早く病院に行ったほうがいいし……。それとも、疲れがたまってる? このところ、色々あったからね。本当に大丈夫かな?」
涼君は、すごく真剣に心配してくれているようだ。
私は迷った。
昼間見たことを伝えるべきかどうかを。
でもそれを言ってしまうと、一人でボウリング場にいたことがバレる上に、あの女子二人に嫉妬しているのがバレバレで、ものすごく恥ずかしいことになるのに気づいた。
それは嫌だ。
どうせ、そういう恥ずかしいことになるのなら……。
もう、告白するしかない。
そう強く思った。
もう、それしかない。
たとえ、結果がどうであっても……。
でも……今はやめておこう……。
もうちょっと気持ちの整理がついてから。
「心配かけてごめんね。うん、ちょっと疲れてるみたい」
「そっか、無理しないようにね。今日はゆっくり休むといいよ」
「ありがとね。うん、そうする」
やっぱり涼君は優しい。
その気遣いが、私の心を包んでいくのを感じる。
そして、その日はお風呂に入ったあと、すぐにベッドに入った。
でも、涼君のことがどうしても頭に浮かんでしまう。
二日連続でなかなか寝付けなかった。
そして、病室でおじいちゃんと話しながら、明日朝の退院まで置いておくモノと、もう病院では使う予定のないモノとを仕分けする。
その後、おじいちゃんがもう使わない荷物を自宅へと持ち帰った。
もちろん、涼君にも手伝ってもらって。
荷物は思っていたよりも少なかったので、一回の往復で済ませることができた。
それから、おじいちゃんに挨拶をしてから病室を後にすると、以前入ったオムライスのお店で早めの昼食をとった私たちは、いったん清涼院家へと引き返すことにした。
涼君が友達と会う約束をしている時刻まで、まだ少し時間があったので。
友達……どんな人なんだろ。
また気になってきた。
でも、聞き出す勇気が湧いてこない。
そんなことを聞くと、きっと鬱陶しく思われちゃうだろうし。
しばらく、涼君の部屋でおしゃべりをしていると、突然「そろそろ行かないと」と涼君が言った。
私は「気をつけてね」と笑顔で言ったけど、内心寂しさでいっぱい。
ちょっと一緒にいられない時間が出てくるだけで、こんなに寂しがっていてはいけないと思うんだけど……。
それに……友達が男子なのか女子なのか、やっぱりどうしても気になっていたのも、こんな気持ちになっている理由の一つかもしれなかった。
「それじゃ、行ってくるね」
連れ立って廊下に出たあと、元気よく言う涼君。
「あ、あの……」
勇気を懸命に振り絞って、私は言った。
「ん? どうかした?」
「えっと……その……」
うう……言いにくい。
「涼君のお友達って、どんな人?」
「ああ、今日会うヤツ? 同じクラスのヤツだよ。あっちはサッカー部じゃなくて卓球部だけど、同じ運動部ということで、仲がいいんだよ」
ヤツって言ってるから、きっと男子だろう。
かなりホッとした……。
「引き止めてごめんね。楽しんできてね。いってらっしゃい!」
心に引っかかっていたことがなくなって、私は明るく言うことができた。
「ありがとう、行ってきます!」
そう言うと、涼君は階段を下りていった。
私は、ひとまず自分の部屋に戻ることにする。
うーん………。
暇だ……。
部屋に戻ったけど、特に何もすることがない。
沙織や仲のいい友達に連絡しようかとも思ったけど、「今から遊ぼう」とか言うのはいきなりすぎて、迷惑だろう。
何気なくパソコンを立ち上げて、何とはなしにニュースを見ていたけど、すぐに飽きてしまった。
そうだ、ボウリングにでも行こうかな。
私はスポーツ全般にだいたい、得意でもなく苦手でもなくという微妙な感じだったけど、ただ一つ、ボウリングだけは自信がなくもなかった。
アベレージも200以上はあるので。
一人で行くのは寂しすぎるけど、「練習だから」と割り切って、以前行ったことがあるボウリング場へと向かったのだった。
ボウリング場に着き、私は5ゲームほどプレイすることにした。
日曜ということもあり、けっこう人が多い。
一人でプレイするのは私だけのようだったので、恥ずかしくもあった……。
肝心のゲーム内容のほうはというと、なぜか不調で、1ゲーム目も2ゲーム目も150ちょっとのスコアに終わった。
今日は冴えないなぁ……。
休憩を挟みながら、3ゲーム目、4ゲーム目をしたところ、徐々に調子が上がってきて、4ゲーム目は180まで出た。
ラストの5ゲーム目を始める前に休憩していると、涼君の声が聞こえたような気がした。
見回してみると……。
3レーンほど向こうに、涼君がいた!
あれ?
水族館とカラオケって言ってなかったっけ。
予定変更したのかな。
間に2レーン挟んでいて、そこにも何人もの人がいたせいか、涼君はこちらには気づいていないみたいだった。
一人で来てるのを気づかれたら恥ずかしいな……。
5ゲーム目はやめておいて、こっそり出ようと思った私だったが、涼君と一緒にいる三人の人を見て、ドキリとして動きが止まった。
一緒に行く友達は一人だけって言っていたように思うんだけど、そのレーンには涼君以外に、男子が一人、女子が二人いることに気づいたのだった。
女子は二人ともかわいく見えた。
ショックで、頭がうまく回らない。
いや、涼君があの二人のうちどちらかとお付き合いしているわけじゃないとは思うんだけど、それでも心が痛んだ。
涼君がスペアを取ったとき、一緒にいる男子だけでなく、女子ともハイタッチしてるところなどを見ると………。
もはや私は、のん気にボウリングを続けていられない心理状態だった。
私は気づかれないように注意して、静かに帰り支度をすると、足早にボウリング場を後にした。
外はいつの間にかどんより曇っていたのに、暑さは相変わらずだった。
夏のお天気は変わりやすいから、傘を持ってくればよかったかな。
私はそのまま、逃げ出すように帰途に着いた。
どうにか雨には降られずに済んだけど、心の中は土砂降りだ。
清涼院家に帰ってきて自分の部屋に入ると、涙が出てきた。
ふられたわけではないはずなのに、ふられた気分だ。
そして、自分の中での、涼君の存在の大きさを改めて思い知った。
今日はもう何をする元気もないから、ここでじっとしてよう。
私はベッドに入って、ごろんと横になった。
誰かの声がした気がして、私はハッと目を覚ました。
泣き寝入りしていたみたい……。
「ご飯だよ~!」
美優さんの声だ。
私はすぐにリビングに向かった。
リビングには涼君もいた。
「ただいま~! さっき帰ってきたよ。あれ? さくらちゃん、どうしたの? 何だか顔色が良くないよ」
涼君は鋭いなぁ……。
「気分でも悪いのかい?」
光定さんも心配そうに聞いてきてくれた。
美也子さんも美優さんも心配してくれたので、私は「大丈夫。ちょっと疲れただけです」と言っておく。
心は大丈夫じゃないけど……。
私はつとめて明るく振舞いながら晩御飯を済ませると、お皿洗いを手伝ってから、自分の部屋へと戻った。
「ちょっといいかな?」
自分の部屋に戻ってすぐ、ノックの音と共に涼君の声がした。
「あ、うん、いいよ」
すぐ答えてドアを開けたら、涼君が心配そうな顔をして入ってくる。
「さくらちゃん、何かあったの?」
私って、そんなに感情が顔に出ちゃってるんだ……。
「もし、身体に不調があるのなら、早く病院に行ったほうがいいし……。それとも、疲れがたまってる? このところ、色々あったからね。本当に大丈夫かな?」
涼君は、すごく真剣に心配してくれているようだ。
私は迷った。
昼間見たことを伝えるべきかどうかを。
でもそれを言ってしまうと、一人でボウリング場にいたことがバレる上に、あの女子二人に嫉妬しているのがバレバレで、ものすごく恥ずかしいことになるのに気づいた。
それは嫌だ。
どうせ、そういう恥ずかしいことになるのなら……。
もう、告白するしかない。
そう強く思った。
もう、それしかない。
たとえ、結果がどうであっても……。
でも……今はやめておこう……。
もうちょっと気持ちの整理がついてから。
「心配かけてごめんね。うん、ちょっと疲れてるみたい」
「そっか、無理しないようにね。今日はゆっくり休むといいよ」
「ありがとね。うん、そうする」
やっぱり涼君は優しい。
その気遣いが、私の心を包んでいくのを感じる。
そして、その日はお風呂に入ったあと、すぐにベッドに入った。
でも、涼君のことがどうしても頭に浮かんでしまう。
二日連続でなかなか寝付けなかった。