さくら駆ける夏
「どうかしたの?」
私の言葉にすぐには答えず、涼君は少しうつむき加減になって、そっと目を閉じた。
難しい表情をして、頭に手を当てている。
「今、大事なことを思い出しそうで………」
涼君はそう言って、何かを必死に思い出そうとしているようだ。
私は邪魔をせず、涼君の言葉を静かに待つ。
しばらくすると、涼君が目を見開き、喉の奥から絞り出したような声で言った。
「思い出したよ……。この前、さくらちゃんに言ったでしょ、俺が以前にさくらちゃんのキーホルダーにそっくりなのを見たことがあるって」
「う、うん……」
確かに涼君は言っていた。
私もはっきり覚えている。
「やっと思い出したよ。あれね………ヒサさんが持っていたんだ。さくらちゃんは、ヒサさんにキーホルダーを貸していたことはあるの?」
「えええ?! 誰にも貸したことなんてないはずだよ。おじいちゃんは、勝手に私の部屋に入ったり、私のモノを持ち去ったりするような人じゃないし……。どういうこと……かな……?」
私は、混乱してきた。
おじいちゃんが私の部屋からキーホルダーを勝手に持ち出すなんて、ちょっと想像できない。
そもそも、そんなことをする理由も考えられなかった。
もし万が一、あのキーホルダーを貸してほしいとか思ったのなら、言ってくれれば私はすぐ貸すし。
だって、おじいちゃんのあの告白によって、こういう状況になっていなければ、あれの重要性に私は気づいていなかったはず。
もっとも、「あのキーホルダーが必要なシチュエーション」自体、起こり得ない気もするけど。
「これは、あくまでも推測なんだけど……」
涼君が、ゆっくりと言う。
「ヒサさんも、同じようなキーホルダーを持っているんじゃないかな?」
「ええ~!」
ますます混乱してくる。
あのキーホルダーって、直真さんたちの話では、胡桃さんからのプレゼントだという話なんじゃ?
私の持ってるのも、多分、胡桃さんが私にくれたということだろうって思うし。
で……おじいちゃんもキーホルダーを貰ってたってこと?
すると、おじいちゃんは胡桃さんの知り合い?
涼君も、私と同じく頭の中を整理中なのか、黙ってうつむいていた。
しばらくして、涼君が口を開いた。
「花火大会まで、まだたっぷり時間があるね。さくらちゃん、申し訳ないんだけど、ここで遊ぶのはこれで切り上げてもいい? 確認したいことがあるんだ」
「うん、もちろん! 今の話を聞いて、私も気になって気になって仕方がないから」
「せっかく楽しく遊んでいたのに、ごめんね。ここには、また日を改めて、来ることにしようよ」
「うん、よろしくね!」
私たちは、今日のところは引き上げることにした。
涼君が確かめたいことって何なのか、私には分かっていなかったけど。
でも、私としても、おじいちゃんとキーホルダーのつながりについて、気になって気になって仕方がなかったから。
更衣室は見当たらず、着替えのために隠れられる茂みのような場所もないらしく、ちょっとうろたえてしまう私。
すると涼君が、「それじゃ、先に着替えてね。俺が見張ってるから」とさらっと言ってくれた。
涼君の優しさが胸にしみわたる。
私は手早く着替え終えると、交代して、今度は私が見張った。
涼君の着替えは驚くほど早かったから、見張りの意味があったのかは分からないけど。
そして、私たちは足早に浜辺を後にし、駆け足で駅へと向かった。
電車に乗ると、涼君は私に一言断ってから、スマホを操作しはじめた。
「直真さんに連絡を取ってみたよ。ほんの数分でいいから、会えたらいいんだけど」
直真さんに何か聞くんだろうか。
「おじいちゃんじゃなく、直真さんに会うんだね」
「うん。ヒサさんには六時に会えるでしょ。それに、もしヒサさんにストレートに何か聞いたとしても、きっと答えてくれないと思うんだ。すぐ答えてくれるようなことならば、元々さくらちゃんに隠さず話しているはず」
おじいちゃん、キーホルダーを自分も持っているって、どうして言ってくれなかったんだろ……。
おじいちゃんの性格的には、隠し事などはすごく嫌うタイプのはずなのに。
「ヒサさんにも、きっと何か事情があるんだろうね。とりあえず、直真さんに色々確認して、新たな情報を手に入れたいところだね」
それからしばらくおしゃべりをしていると、早くも直真さんからのお返事が来たらしかった。
「やった! 俺たちはツイてるよ! このあと、うちの近くの交番で会えるって」
そう言えば、私が初めて涼君たちの住む街に来たときも交番で会ったんだった。
とにかく、会う時間をとってもらえるようで、本当によかった。
駅に着くと、荷物を整理するために、ひとまず清涼院家へ帰ることにした。
水着やバスタオルなどは、今日はもう使わないだろうから。
涼君に言われて、一応、例のキーホルダーや八重桜さんに貰った写真も持っていくことにした。
そして、花火大会に備えて、浴衣や髪飾りなどもバッグに入れる。
涼君も必要なものをバッグに詰め終わったようで、廊下で待っていてくれた。
準備が出来たところで、私たちは足早に交番へと向かう。
はやる心を抑えつつ。
私の言葉にすぐには答えず、涼君は少しうつむき加減になって、そっと目を閉じた。
難しい表情をして、頭に手を当てている。
「今、大事なことを思い出しそうで………」
涼君はそう言って、何かを必死に思い出そうとしているようだ。
私は邪魔をせず、涼君の言葉を静かに待つ。
しばらくすると、涼君が目を見開き、喉の奥から絞り出したような声で言った。
「思い出したよ……。この前、さくらちゃんに言ったでしょ、俺が以前にさくらちゃんのキーホルダーにそっくりなのを見たことがあるって」
「う、うん……」
確かに涼君は言っていた。
私もはっきり覚えている。
「やっと思い出したよ。あれね………ヒサさんが持っていたんだ。さくらちゃんは、ヒサさんにキーホルダーを貸していたことはあるの?」
「えええ?! 誰にも貸したことなんてないはずだよ。おじいちゃんは、勝手に私の部屋に入ったり、私のモノを持ち去ったりするような人じゃないし……。どういうこと……かな……?」
私は、混乱してきた。
おじいちゃんが私の部屋からキーホルダーを勝手に持ち出すなんて、ちょっと想像できない。
そもそも、そんなことをする理由も考えられなかった。
もし万が一、あのキーホルダーを貸してほしいとか思ったのなら、言ってくれれば私はすぐ貸すし。
だって、おじいちゃんのあの告白によって、こういう状況になっていなければ、あれの重要性に私は気づいていなかったはず。
もっとも、「あのキーホルダーが必要なシチュエーション」自体、起こり得ない気もするけど。
「これは、あくまでも推測なんだけど……」
涼君が、ゆっくりと言う。
「ヒサさんも、同じようなキーホルダーを持っているんじゃないかな?」
「ええ~!」
ますます混乱してくる。
あのキーホルダーって、直真さんたちの話では、胡桃さんからのプレゼントだという話なんじゃ?
私の持ってるのも、多分、胡桃さんが私にくれたということだろうって思うし。
で……おじいちゃんもキーホルダーを貰ってたってこと?
すると、おじいちゃんは胡桃さんの知り合い?
涼君も、私と同じく頭の中を整理中なのか、黙ってうつむいていた。
しばらくして、涼君が口を開いた。
「花火大会まで、まだたっぷり時間があるね。さくらちゃん、申し訳ないんだけど、ここで遊ぶのはこれで切り上げてもいい? 確認したいことがあるんだ」
「うん、もちろん! 今の話を聞いて、私も気になって気になって仕方がないから」
「せっかく楽しく遊んでいたのに、ごめんね。ここには、また日を改めて、来ることにしようよ」
「うん、よろしくね!」
私たちは、今日のところは引き上げることにした。
涼君が確かめたいことって何なのか、私には分かっていなかったけど。
でも、私としても、おじいちゃんとキーホルダーのつながりについて、気になって気になって仕方がなかったから。
更衣室は見当たらず、着替えのために隠れられる茂みのような場所もないらしく、ちょっとうろたえてしまう私。
すると涼君が、「それじゃ、先に着替えてね。俺が見張ってるから」とさらっと言ってくれた。
涼君の優しさが胸にしみわたる。
私は手早く着替え終えると、交代して、今度は私が見張った。
涼君の着替えは驚くほど早かったから、見張りの意味があったのかは分からないけど。
そして、私たちは足早に浜辺を後にし、駆け足で駅へと向かった。
電車に乗ると、涼君は私に一言断ってから、スマホを操作しはじめた。
「直真さんに連絡を取ってみたよ。ほんの数分でいいから、会えたらいいんだけど」
直真さんに何か聞くんだろうか。
「おじいちゃんじゃなく、直真さんに会うんだね」
「うん。ヒサさんには六時に会えるでしょ。それに、もしヒサさんにストレートに何か聞いたとしても、きっと答えてくれないと思うんだ。すぐ答えてくれるようなことならば、元々さくらちゃんに隠さず話しているはず」
おじいちゃん、キーホルダーを自分も持っているって、どうして言ってくれなかったんだろ……。
おじいちゃんの性格的には、隠し事などはすごく嫌うタイプのはずなのに。
「ヒサさんにも、きっと何か事情があるんだろうね。とりあえず、直真さんに色々確認して、新たな情報を手に入れたいところだね」
それからしばらくおしゃべりをしていると、早くも直真さんからのお返事が来たらしかった。
「やった! 俺たちはツイてるよ! このあと、うちの近くの交番で会えるって」
そう言えば、私が初めて涼君たちの住む街に来たときも交番で会ったんだった。
とにかく、会う時間をとってもらえるようで、本当によかった。
駅に着くと、荷物を整理するために、ひとまず清涼院家へ帰ることにした。
水着やバスタオルなどは、今日はもう使わないだろうから。
涼君に言われて、一応、例のキーホルダーや八重桜さんに貰った写真も持っていくことにした。
そして、花火大会に備えて、浴衣や髪飾りなどもバッグに入れる。
涼君も必要なものをバッグに詰め終わったようで、廊下で待っていてくれた。
準備が出来たところで、私たちは足早に交番へと向かう。
はやる心を抑えつつ。