さくら駆ける夏
「いえ、どう見てもここに写っているのは、二階堂君ですよ。以前、本官と共に劇団ヴィルトカッツェに所属していた頃よりは、いくらか年をとったように見えますが……。あの頃の面影が、はっきり残っています。間違いないですね」
「えええ!!」
私は驚きのあまり、飛び上がった。
「でも、この人、私のおじいちゃんなんですよ! あと、苗字も『二階堂』じゃなく、『花ヶ池』です! 私の苗字も、そうなんですから」
「なんですって! さくらさんの祖父だったんですか?! しかし驚きましたね、二階堂君にこんなに大きなお孫さんがいるなんて。あの人、一体全体、何歳なんでしょう」
苦笑いをする直真さん。
私のほうは、突如判明した事実に頭の中が大混乱で、固まってしまっていた。
「で、でも……おじいちゃんと私は、血がつながっていないって分かったんですから、祖父と孫娘といいましても……年齢は、あんまり関係ないかと思います」
「ああ、そうでしたよね。さくらさんは、実のご両親をお探しの身でしたよね、これは失礼いたしました」
申し訳なさそうな直真さん。
直真さんも、私ほどではないにしても、やや驚き、混乱している様子だ。
自分の知る「二階堂さん」の孫娘が目の前にいることで。
たとえ、血がつながっていないとはいえ。
「で……涼君、これはどういうことなの? 涼君は、知ってたの?」
思考回路がフリーズ寸前の私は、涼君に助けを求めた。
「ヒサさんが『二階堂』って名前だってことは、今知ったばかりだよ。俺は、今までの情報から推理をして、『恐らく、ヒサさんも元劇団員に間違いない』と思ったから、聞いてみただけなんだ」
「そ、そんなに情報ってあったっけ?」
私は、全く何も思いつかなかった……。
「きっかけは、キーホルダーだよ。あれらのキーホルダーは胡桃さんから劇団員へのプレゼントっていう話だったでしょ。だから、ヒサさんもきっと元劇団員かもって思いついたんだ。そう考えると……ヒサさんの部屋にたくさんあった、コスプレ用のように思える衣装にも説明がつくね。ヒサさんがコスプレ好きなんてこと、さくらちゃんも俺も知らなかったわけだし……あれらは多分、コスプレ用なんじゃなくて、劇で使用したものなんじゃないかな。そう考えると自然だよね。それで、ヒサさんの写真を直真さんにお見せして、俺の推理が正しいかどうか確認しようとしたんだ。結局、直真さんのおかげで、推理が裏付けられただけでなく、さらに新事実まで判明したということになるね。ヒサさんが二階堂さんだっていう新事実がね」
涼君は冷静に言った。
それにしても………。
おじいちゃんが元劇団員?
おじいちゃんが二階堂さん?
全然ピンと来ないよ~。
ん?
あ、そういえば、二階堂さんと言えば………。
「そういえば、二階堂さんっていう人のこと、本間さんも話してたかも。恋のライバルだったって」
「ジョセフさんも話してたよね。ジョセフさんは、胡桃さんの次に、二階堂さんと仲が良かったって」
確かに涼君の言うとおりだ。
ジョセフさんもそんなことを言ってたように思う。
あ……あれ?
ジョセフさん?
そのとき、ジョセフさんの顔を思い浮かべた私は、思わず「ああっ!」と声をあげた。
「さくらちゃん、どうかしたの?」
「おじいちゃんのアルバムに、外国人の男の人が写ってたのを見たんだ。今思えば、あの人……きっと若い頃のジョセフさんだ! ジョセフさんに会ったとき、『この人の顔、どこかで見たな』って感じただけど、てっきりネットに出てた写真で見たからだって思い込んじゃってて。でも、おじいちゃんのアルバムで見た外国人男性に似てたから、きっと『どこかで見たな』って感じたんだと思う。今、思い返してみると、あの写真に写ってた外国人の人、ジョセフさんにそっくり!」
そのとき、直真さんが口を開いた。
「ジョセフ……これまた懐かしいお名前ですね。彼もいましたよ、劇団に」
やっぱり!
「当時、本官は今より恰幅がよかったんですが、そのことをよくジョセフから、からかわれたものです。本官の太鼓腹を触りながらね。いや~懐かしい!」
直真さん、昔はちょっとぽっちゃり体型だったってことかな。
どんな人だったんだろう。
直真さんもあの劇団にいたってことだし、写真に写っているかな。
八重桜さんから貰った集合写真をバッグから取り出して、直真さんに見せながら聞いてみた。
「この中に、直真さんはいらっしゃいますか?」
「ああ、ここにいますね。この写真は全員で撮ったものじゃないようですから、二階堂君やジョセフの姿はないですが」
直真さんが指差したのは、中世の吟遊詩人っぽい服装の人だった。
ああっ……!!
この写真を見たときに感じた違和感……「この中に、私が会ったことのある人がいる」っていうのは、直真さんのことだったんだ!
そっか!
あの時点では、交番で短時間話しただけだったから、すぐに思い出せなかったんだ。
そして、そのままうやむやになってしまってたけど。
写真に写っている昔の直真さんは、体型こそ今よりぽっちゃりだけど、何よりも印象的な目じりのほくろや太い眉毛はそのままだった。
「それで……本当に、おじいちゃんイコール二階堂さん、ってことで間違いないんでしょうか?」
直真さんと涼君の顔を交互に見ながら、私が聞いた。
おじいちゃんが元劇団員ということも、衝撃的すぎて実はまだ頭にはすんなり入ってきていなかったけれど、ジョセフさんたちの話に出てきた二階堂さんが、実はおじいちゃんだったなんてことは、なおさら衝撃的だったし……。
「この写真の右端に写っている人物が、さくらさんのおじいさんとおっしゃるなら、まず間違いないでしょうね。ここに写っている人物が二階堂君だということは、私が保証しますよ。それに、清涼院さんがさっき『ヒサさん』って言ってたはずですが、二階堂君の下の名前は『ヒサノリ』ですよ」
うう……おじいちゃんの名前、「ヒサノリ」だぁ。
もう確定っぽいなぁ。
「それじゃ……おじいちゃんも胡桃さんのことは知ってたってこと? それなら、どうして何も言ってくれないのかなぁ。何か一言、言ってくれてもいいじゃん」
頭の中がパニック状態だったため、ついつい泣き言か愚痴のような調子で、涼君に向かって言ってしまった。
「ヒサさんにも、何か深い事情があるんだろうね。これは、このあと本人に直接聞くのがいいと思うんだけど、さくらちゃんはどう?」
私にも、もちろん異論はなかった。
「大賛成! おじいちゃんがこんなにいっぱい隠し事してるなんて、思わなかった……」
私を信用してくれてなかったのかな……寂しいな。
「それでは、直真さん、そろそろお暇(いとま)しますね。貴重な情報、ありがとうございました」
涼君が、頭を下げた。
私も「ありがとうございました」と言い、同じく頭を下げる。
「いえいえ、少しでもお役に立ててたのなら何よりです。それに本官も、二階堂君が今も元気に頑張っていると知ることができて、大変嬉しいですよ。こちらこそ、ありがとうございました」
直真さんは、深々とお辞儀をして言った。
姿勢のきれいなお辞儀だ。
そして私たちは交番を後にして、家へと向かった。
「えええ!!」
私は驚きのあまり、飛び上がった。
「でも、この人、私のおじいちゃんなんですよ! あと、苗字も『二階堂』じゃなく、『花ヶ池』です! 私の苗字も、そうなんですから」
「なんですって! さくらさんの祖父だったんですか?! しかし驚きましたね、二階堂君にこんなに大きなお孫さんがいるなんて。あの人、一体全体、何歳なんでしょう」
苦笑いをする直真さん。
私のほうは、突如判明した事実に頭の中が大混乱で、固まってしまっていた。
「で、でも……おじいちゃんと私は、血がつながっていないって分かったんですから、祖父と孫娘といいましても……年齢は、あんまり関係ないかと思います」
「ああ、そうでしたよね。さくらさんは、実のご両親をお探しの身でしたよね、これは失礼いたしました」
申し訳なさそうな直真さん。
直真さんも、私ほどではないにしても、やや驚き、混乱している様子だ。
自分の知る「二階堂さん」の孫娘が目の前にいることで。
たとえ、血がつながっていないとはいえ。
「で……涼君、これはどういうことなの? 涼君は、知ってたの?」
思考回路がフリーズ寸前の私は、涼君に助けを求めた。
「ヒサさんが『二階堂』って名前だってことは、今知ったばかりだよ。俺は、今までの情報から推理をして、『恐らく、ヒサさんも元劇団員に間違いない』と思ったから、聞いてみただけなんだ」
「そ、そんなに情報ってあったっけ?」
私は、全く何も思いつかなかった……。
「きっかけは、キーホルダーだよ。あれらのキーホルダーは胡桃さんから劇団員へのプレゼントっていう話だったでしょ。だから、ヒサさんもきっと元劇団員かもって思いついたんだ。そう考えると……ヒサさんの部屋にたくさんあった、コスプレ用のように思える衣装にも説明がつくね。ヒサさんがコスプレ好きなんてこと、さくらちゃんも俺も知らなかったわけだし……あれらは多分、コスプレ用なんじゃなくて、劇で使用したものなんじゃないかな。そう考えると自然だよね。それで、ヒサさんの写真を直真さんにお見せして、俺の推理が正しいかどうか確認しようとしたんだ。結局、直真さんのおかげで、推理が裏付けられただけでなく、さらに新事実まで判明したということになるね。ヒサさんが二階堂さんだっていう新事実がね」
涼君は冷静に言った。
それにしても………。
おじいちゃんが元劇団員?
おじいちゃんが二階堂さん?
全然ピンと来ないよ~。
ん?
あ、そういえば、二階堂さんと言えば………。
「そういえば、二階堂さんっていう人のこと、本間さんも話してたかも。恋のライバルだったって」
「ジョセフさんも話してたよね。ジョセフさんは、胡桃さんの次に、二階堂さんと仲が良かったって」
確かに涼君の言うとおりだ。
ジョセフさんもそんなことを言ってたように思う。
あ……あれ?
ジョセフさん?
そのとき、ジョセフさんの顔を思い浮かべた私は、思わず「ああっ!」と声をあげた。
「さくらちゃん、どうかしたの?」
「おじいちゃんのアルバムに、外国人の男の人が写ってたのを見たんだ。今思えば、あの人……きっと若い頃のジョセフさんだ! ジョセフさんに会ったとき、『この人の顔、どこかで見たな』って感じただけど、てっきりネットに出てた写真で見たからだって思い込んじゃってて。でも、おじいちゃんのアルバムで見た外国人男性に似てたから、きっと『どこかで見たな』って感じたんだと思う。今、思い返してみると、あの写真に写ってた外国人の人、ジョセフさんにそっくり!」
そのとき、直真さんが口を開いた。
「ジョセフ……これまた懐かしいお名前ですね。彼もいましたよ、劇団に」
やっぱり!
「当時、本官は今より恰幅がよかったんですが、そのことをよくジョセフから、からかわれたものです。本官の太鼓腹を触りながらね。いや~懐かしい!」
直真さん、昔はちょっとぽっちゃり体型だったってことかな。
どんな人だったんだろう。
直真さんもあの劇団にいたってことだし、写真に写っているかな。
八重桜さんから貰った集合写真をバッグから取り出して、直真さんに見せながら聞いてみた。
「この中に、直真さんはいらっしゃいますか?」
「ああ、ここにいますね。この写真は全員で撮ったものじゃないようですから、二階堂君やジョセフの姿はないですが」
直真さんが指差したのは、中世の吟遊詩人っぽい服装の人だった。
ああっ……!!
この写真を見たときに感じた違和感……「この中に、私が会ったことのある人がいる」っていうのは、直真さんのことだったんだ!
そっか!
あの時点では、交番で短時間話しただけだったから、すぐに思い出せなかったんだ。
そして、そのままうやむやになってしまってたけど。
写真に写っている昔の直真さんは、体型こそ今よりぽっちゃりだけど、何よりも印象的な目じりのほくろや太い眉毛はそのままだった。
「それで……本当に、おじいちゃんイコール二階堂さん、ってことで間違いないんでしょうか?」
直真さんと涼君の顔を交互に見ながら、私が聞いた。
おじいちゃんが元劇団員ということも、衝撃的すぎて実はまだ頭にはすんなり入ってきていなかったけれど、ジョセフさんたちの話に出てきた二階堂さんが、実はおじいちゃんだったなんてことは、なおさら衝撃的だったし……。
「この写真の右端に写っている人物が、さくらさんのおじいさんとおっしゃるなら、まず間違いないでしょうね。ここに写っている人物が二階堂君だということは、私が保証しますよ。それに、清涼院さんがさっき『ヒサさん』って言ってたはずですが、二階堂君の下の名前は『ヒサノリ』ですよ」
うう……おじいちゃんの名前、「ヒサノリ」だぁ。
もう確定っぽいなぁ。
「それじゃ……おじいちゃんも胡桃さんのことは知ってたってこと? それなら、どうして何も言ってくれないのかなぁ。何か一言、言ってくれてもいいじゃん」
頭の中がパニック状態だったため、ついつい泣き言か愚痴のような調子で、涼君に向かって言ってしまった。
「ヒサさんにも、何か深い事情があるんだろうね。これは、このあと本人に直接聞くのがいいと思うんだけど、さくらちゃんはどう?」
私にも、もちろん異論はなかった。
「大賛成! おじいちゃんがこんなにいっぱい隠し事してるなんて、思わなかった……」
私を信用してくれてなかったのかな……寂しいな。
「それでは、直真さん、そろそろお暇(いとま)しますね。貴重な情報、ありがとうございました」
涼君が、頭を下げた。
私も「ありがとうございました」と言い、同じく頭を下げる。
「いえいえ、少しでもお役に立ててたのなら何よりです。それに本官も、二階堂君が今も元気に頑張っていると知ることができて、大変嬉しいですよ。こちらこそ、ありがとうございました」
直真さんは、深々とお辞儀をして言った。
姿勢のきれいなお辞儀だ。
そして私たちは交番を後にして、家へと向かった。