だから抱きしめた
「じゃあここでは、…最後。」
「え…?」
「そんなに顔真っ赤にして、目もうるうるで、僕はそろそろ押し倒してもいいのかな?」
「っ…何言って…!」
「…好きだよ、彩里さん。大好き。好きで好きで、たまらない。可愛くて…たまらない。」
「んっ…。」

 唇と唇が小さく触れあった、と思ったら、それはすぐさま深いものに変わる。いつの間にか後頭部に回っていた手が離れることを許さない。時折離れて酸素補給をさせてくれはするものの、それはあまりにも一瞬で、彩里は酸欠寸前だった。

「彩里さんっ…!」
「っ…はぁっ…はぁ…。」
「ごめんなさい。やりすぎました。」
「…っ…やっぱり勝てない…透哉さんには。」

 彩里は透哉の腕にしがみつきながらそう言った。彩里の背中に回った腕が、優しく彩里を抱き寄せた。

「…僕は彩里さんに勝てません。その顔をあと3秒見つめたら欲に負けて押し倒します。」
「…っ、じゃあ…。」

 そう言った彩里はぐっと背伸びをする。自分から唇を重ねることは何度やっても照れるけれど、この後の透哉の顔が見たいという好奇心が勝った。

「…3秒経った。欲に負けた?」
「…押し倒せってことで合ってるね、彩里さん。」
「きゃっ!ちょっ!下ろして!重いから!腕ちぎれるよ!」
「彩里さんで腕がちぎれてたら何も持てません。」
「ちぎれるってば!」
「…照れ隠しなの、わかってるから大丈夫。誘ったの、今日は彩里さんだから覚悟して。」
「誘ってない!」

 彩里を抱き抱えたまま、透哉がそっと彩里の耳元に唇を寄せた。

「…好きだよ。大好き。」

 恥ずかしさでどうしようもなくなった彩里は、透哉の胸に顔を埋めたまま口を開く。

「…私も好き。大好き。」

*fin*
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