焼けぼっくいに火をつけて
先生への気持ちが固まったのは、秋頃だった。

夏休みが終わり、2学期になっても、相変わらずわたしたちの放課後は補習。

1学期の期末試験もわたしたちは散々な結果で、先生は呆れ返っていた。

肩に疲れを感じて、プリントの問題を解く手を止める。紗絵ちゃんは大会前の練習で、補習を休んでいる。

首をくるりと回すと、ゴリゴリと音がした。教室には、男子たちが鉛筆を動かす音が続く。

「!」

先生に目を向けたわたしは、思わず息を飲んだ。

いつものように空いた席に座っている先生だけど・・・。

窓の外に向けている先生の目からは、静かに涙が流れていた。

大人の男の人が泣くなんて・・・。

激しくなる鼓動に合わせて、耳の奥がドクドクと脈打つ。目を逸らすことができない。

プリントと対峙している男子たちは、先生の涙に気づいてないみたいだ。

鼓動を落ち着かせようと目を閉じて、何回も深呼吸する。

何か、辛いことがあったの?

もう1度先生を見ると、手のひらで涙を拭うところだった。涙を拭った先生が、教室に向き直ったから、わたしは慌てて顔を逸らした。

「そろそろ終わるか?」

・・・先生の声は、いつもの先生のものだ。

見てしまった先生の涙と、いつもと変わらない声に、わたしの心臓は鷲掴みされたみたいにギュッと苦しくなった。

涙の理由を知りたい。先生の力になりたい。
先生のことをもっと知りたい・・・。

ほのかな憧れが、強い恋心に変わった瞬間だった。

後に先生の涙は、わたしの勘違いだと判明したけど。

「北山、気分が悪いのか?」
「え?あっ、わっ!」

突然目の前に現れた先生に、思わずのけぞってしまった。

「そんな逃げ方されたら、俺でも傷つくぞ。・・・終わってるな。よし、答え合わせするぞ」

何事もなかったように振る舞う先生に、わたしは切なさを募らせた。
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