焼けぼっくいに火をつけて
9月も中旬を過ぎて、校内は文化祭ムードが広がっていく。学校行事を優先させるため、補習は休み。
わたしとしては、補習の方がいいんだけど。

文化祭の準備は、昼休みや放課後を使う。部活がある人は、部活が終わってから合流。

わたしのクラスがやるのは幕末カフェ。何人かの歴史好きな同級生が中心になってるけど、幕末とカフェの組み合わせなんて、はっきり言って「?」だ。
本当は「戦国カフェ」にしたかったらしいけど、戦国武士のコスプレをするには、手間も時間も予算もかかりすぎるから、泣く泣く幕末になったとか。
日本史は好きだけど、幕末にしても、戦国にしても、「?」なのには変わりない。

「遅くなってゴメンね!」

合唱部の練習が終わって、わたしは教室に戻った。

机が後ろに寄せられて、できたスペースで看板や飾りになる段ボールが絵の具で塗られている。

隅の方では、何人かがコスチュームを縫っている。

「楠本くん、何をしたらいいかな?」
「そうだな、ポスターの色塗りをやって貰おうか」
「うん、分かった」

わたしは、ポスターを作っている男子に近づいた。

「わたしも一緒にするね」

声をかけると、男子は顔を上げて、わたしを見た。動いた拍子に、ふわっと汗のニオイが届いた。彼も部活が終わってから合流したんだろう。

絵筆を握っていると思ってたけど、彼が持っていたのは毛筆の筆。
鉛筆で下書きされた絵の横に、きれいな字で「幕末カフェ」と書き終えたところだったみたい。

「わたしは何をしたら・・・」
「墨汁が乾いたら、指定された色を塗って」

ぶっきら棒に答えた彼は、サッサと書道の道具を片づけ始めた。と、思ってるうちに帰り支度?

「悪いな、お先に」
「おぅ、お疲れさん」

呆気に取られてるうちに、彼は実行委員の楠本くんに声をかけると、教室から出て行ってしまった。

「何なの、アレ!」

まだみんな残って準備してるのに。

「北見のヤツ、予備校があるから最後まで居れないんだわ。短時間でもできることはするって言うからさ、ポスターの字を書いてた訳。あいつ、字が上手いだろ?」

確かにポスターの字は上手い。もう美しいと言っていいレベルだと思う。だけど、だから何なんだ。

北見くんは学年でもトップの成績。ほとんど話したことないけど。

「何か、感じ悪っ」

北見くんが出て行った扉を睨んで、顔をしかめた。
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