焼けぼっくいに火をつけて
昇降口に着いたけど、靴を履き替えてる暇なんてない。上履きのまま、校舎から出ようとした。

「待ってたよ、愛理(えり)。帰ろう」
「北見くん・・・」

出入り口を、塞ぐように立っていた北見くんに阻まれた。

「北見くん、少し待ってて。わたし、用が・・・」

左側の出入り口に向かおうとしたけど、北見くんに腕を掴まれ、そのまま靴箱に身体を押し付けられてしまった。

「卒業と進学のお祝いを、一緒にしようって、約束したよね」
「でも、それは明日・・・」
「・・・したよね」

反論は許さないというように、わたしの腕を掴んでる手に力が入った。

腕の痛みと、険しい北見くんの表情に怖くなり、わたしは頷いた。

「じゃあ帰ろうか。愛理の荷物も持って来てるから」

わたしの反応を見て、表情を緩めた北見くんは、腕から離した手でわたしの手を握り、指を絡めた。

(先生とちゃんとお別れしたかったな。先生に会ったら、わたし・・・)

会ったら何?先生に会って、どうしたかったの?

『式が終わったら話がある・・・』

先生は、わたしに何を言おうとしてたの?

握られた手に力が加えられ、頭ひとつ高いところにある、北見くんの顔を見上げた。

入学した時からずっと、先生に強く憧れていた。憧れが恋心になるのに、時間はかからなかった。

けど「高校生は高校生と」と、気持ちを封印して、わたしは北見くんを選んだ。

北見くんとは趣味も合うし、一緒にいて楽しい。嫌いじゃない。好きだと思う。だけど先生を見ていた時のように、狂おしい気持ちにはならない。

北見くんとは4月から同じ大学に通う。たぶん、これから先も、ずっと一緒にいるんだろう。

何も問題ない。

だったら、どうしてわたしは悩んでるんだろう。

卒業から10年たっても、あの日の夢を見るなんて。

あの日、ぼんやりと描いていた北見くんとの未来は、すぐ目の前にあるはずだった。
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