焼けぼっくいに火をつけて
え・・・

最後に来た人から目が離せない。

他人の空似?

そんなことない。わたしがあの人を見間違えるなんて、絶対にない。

「全員揃ったところで、まずは自己紹介しようか。俺は第3校で英語を担当している津島です」

真ん中の人が言った。その右、わたしの正面の人は、渡辺さんと名乗った。

そして、左端・・・

「数学を担当している奥村です」

10年前、卒業式の朝に別れたきりの奥村先生だった。

先生はこういう場に慣れていないのか、そわそわと落ち着きなく目を動かしている。

「じゃ、女性陣の紹介しまーす。わたしは第1校の英語担当、ののりりんこと田岡範子です。津島とは同期ね。
で、こっちがありりんと、えりりん」
「事務員の川井有紗です」

川井さんはちょこんと首を傾げる。

「事務の北山です」

なるべく小さい声で言ったつもりだったけど、先生の耳にもちゃんと届いたようだ。驚いたように、わたしを見ている。

「北山・・・、北山愛理っ?」

よっぽど驚いたのか、先生は立ち上がって、わたしを指差して叫んだ。

「はい。お久しぶりです、奥村先生」

わたしが深々と頭を下げると、先生も幾分か落ち着いてきた。

「卒業式以来だな。あれから・・・10年か」
「はい」

唐突な再会シーンに、田岡先生たちも、目を丸くしている。

「そうか、10年になるんだな。10年たって、北山、お前本当に・・・」

顎に手を当てる先生。

「・・・老けたなぁ」
「はぁっ?」

先生の言葉に、わたしのこめかみがピキッと音を立て、一瞬にして場が凍りついた。
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