BOTANYUKI
何も言えず、私はルカの顔を見上げた。
至近距離で私と目が合ったルカは形の良い唇の端を僅かに上げると、そのままゆっくりとそれを私の唇の上に落とした。
それは柔らかく、
フワリと溶けていく。
ルカがどうして私にキスしたのか分からない。だけど私もルカを求めて唇を返した。
私もそれがルカへの想いなのか、それとも会えないタケルへの想いなのかも分からない。
唯一分かることは、私たちはお互い深く求め合っているということ。
だけど求め合うには私たちはあまりにも不完全で歪なピースだった。
私たちはきっとこの先もずっと変わらず、ただ宙ぶらりんのまま一生を過ごすのかもしれない。
私たちは舞い散る雪の中、何度も唇を重ねた。
ルカの唇は何度重ねても冷たく、柔らかく、そして温もりに儚く溶けていく。
それはまるで雪雲が気まぐれにもたらす恵のように、鮮やかで印象的なのに、形に残ることなく消えていく。
だけど、それでもいい。
たとえそれが、
捕まえた掌の中で消えたとしても
今はただ、その儚い幻想の中に
埋もれて眠りたかった。
(了)