【壁ドン企画】争奪戦の末に~少し頼りない彼の場合~
「ねぇ、なんで二人が揃うとケンカしちゃうの」

マンションの階段を登りながら、ぽつぽつと話しかけるが、啓太は黙ったまま。

怒っているわけではないと思うし、怒りたいのはこっちだ。

「もう、いないんだから、あいつの話やめろよ」

やっと口を開いた啓太は「今日は、な」と続けて気まずいのか、がしがしと自分の前髪をかき混ぜる。

「4人で遊んだら楽しいと思うの。高志さんだって・・・」

「楓」

先を行く啓太に握られていた手を強く引かれタタラを踏むと、踊り場の壁に背中を押し付けられる。

繋いでいる手はそのままに、啓太の右手が耳元で強い音を立てる。

びっくりして、啓太を見上げようとしたら、肩に啓太の頭が落ちてきた。

「啓太?」

甘えるように額を擦り付けてくる啓太の背中に左手を添える。

「楓さ、柏木のことすきじゃん?」

「そりゃ、親友だし」

「高志さんのことも尊敬してるっしょ?」

「まあ、大人だなぁって思うよ」

「でも、俺が彼氏なんだよ?」

「啓太のことはLOVEの好きじゃない。他の人とは全然違う。ねえ、酔っ払ってるんでしょ」

酔っ払いは必ず否定する。啓太も漏れなく小さく否定した。

「ねぇ、楓。みんなに愛されてる楓はすごく魅力的だよ。だけどさ、俺心配になっちゃうから」

右手を預けている、啓太の左手に力がこもる。

痛くはないけれど、強い力。

「俺のものになって」

「啓太、心配しなくても、私は啓太の彼女だよ」

なだめるように背中をさする。

ゆっくりと腕の分だけ啓太の身体が離れる。

思ったより真剣な瞳に射抜かれる。

「それじゃ足りない」

真っ直ぐな視線に言葉を返すことができずにただ、啓太を見つめ返す。

「結婚してください」

耳に届いた言葉が一瞬理解できなかった。

「俺のお嫁さんになって。幸せにするから。ずっと大事にするから」

続けられた啓太の言葉に、やっと頭がついてきて嬉しくてぽろぽろと涙がこぼれた。

「か、楓?!」

月明かりの中見上げる啓太が、今までで一番かっこよく見えたのに、それは一瞬だけだった。

慌ててハンカチを取り出す啓太の胸に飛び込むと、もう一度名前を呼ばれる。

「ねえ、返事していい?」

「いい返事だけにしてね」

温かい腕に頭を引き寄せられる。

「もちろん、『はい』に決まってるでしょ」

「泣くからびっくりしたよー」

情けない声をこぼして、手にしたでハンカチ私の涙が落ちた頬を撫でる。

笑顔の啓太に、笑顔で応える。

「良子と高志さんとも仲良くしてよね」

「楓が奥さんになったら、仲良くできるよ。なんたって、楓一番は俺って主張できるからな」

どちらからともなく顔を寄せる。

親友相手に焼き餅って、この先大丈夫か心配になるけど、これからの甘い生活に思いを馳せて、目を閉じた。

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