愛とか恋とか嫁だとか。

…………っ?


右手に強い力がかかる。


それは、確認するまでもなく、青山の手で、あたしの手首が掴まれていて。


丁度あたし達の手元は商品棚で周りから見えない。


ショップ店員が、スーツを着たお客に、右手を掴まれているなんて、誰一人知らない。


急に辺りの空気が変わった気がして。


「……ちょ……離し……「大丈夫なのか?」


大丈夫って、何がよ?


思っても、声にならない。


無理に声を出せば、きっと泣いてしまう。





航平、あたし今大丈夫じゃないよ、って言ってしまいそうになる。


そんなことをしたら、今までの努力が水の泡。


そんなこと、出来ない。
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