居場所
「…帰ろ」
ポツンと呟き私は鞄を持ち立ち上がる。
「帰るの?」
不意に聞こえた山ちゃんの声にあたしは視線を向ける。
後ろを振り返るとそこには山ちゃんが立っていた。
「うん長い時間居てごめん。あっ、お金」
そう言ったあたしは鞄の中から財布を取り出す。
「いいよ別に」
「でも、…払うよ」
「いいって。気をつけて帰れよ」
あたしの肩をポンポンと叩いて口角を上げ山ちゃんはカウンターへと足を進めて行く。
「ありがとう」
その山ちゃんの背後を見ながらあたしは呟き店を出た。
路地を抜けると街中の明かりがキラキラと輝き、まるであたしとは正反対の輝きをしている。
その輝きがあまりにも眩しくて思わず目線を地面に向けた。
友達どうし恋人達は楽しそうに笑顔で笑い合っている。その笑顔が余りにも苦痛に思え、あたしにはできない事。
あの日、あの時から笑顔も何もかも全てを失ったから…