【壁ドン企画】争奪戦の末に~男前彼女の場合~
男前彼女の場合

仕事が終わったところで、俺は携帯を確認した。

彼女の良子から着信があったのは今から約30分前。

それから、メールが1件。

彼女の仕事が終わった旨、待ち合わせの時間と店名が記されているのみの、愛想も可愛げもない。

それはシンプルが一番という彼女らしいところであり、少し寂しくもあるところ。

今から店に向かえば、20分くらいで着くだろう。それでも約1時間も待たせていることになってしまうため、早足で店に向かう。

けして、息切れなんて見せない。

けして早く会いたくて急いだわけではない。

年上なんだから、そのくらいの余裕を見せたい。

しかし、そんなことを思う必要もなく、良子は親友の彼氏と大騒ぎをしており、姿が見えないところからすでに声が聞こえた。

「大事な彼女一人守れない男が、彼氏面するくらいなら奪ってやる」

掴みかからん勢いで小柄な体を精一杯大きく開き、小さな顎を上げて同級生の啓太君に挑発するのは、紛れもなく、彼『女』である良子で、男から女を奪う女ってどうなんだろうとうっかり空を仰ぎ見てしまった。

「同じ職場だからって、好き勝手してるのは聞いてんだぞ。いつも女同士でベタベタしやがって」

良子の勢いに負けず、こちらは良子の大事な親友の彼氏の啓太君。

啓太君とは同級生のよしみで、親友の楓ちゃんとのキューピットになったと思いきや、どうも気に喰わないのか、親友を取られたと思うのか会えば激しく対立している二人。

そんな二人の横で、喧嘩の種である楓ちゃんはぐったりとうつむいて壁にもたれている。

大体この3人がいると、この構成をよく見かける。

楓ちゃんのどこがいいかはわからないが、良子と楓ちゃんは同じ職場ですっかり意気投合し、良子は楓ちゃんを溺愛している。

俺よりも楓ちゃんを優先する良子に少しならず辛酸を舐めさせられていることは内緒だ。

ここはショック療法といこうか。

ゆったりとした足取りでうつむいている楓ちゃんに近寄る。彼女が顔を上げる前に背後の壁に右手をついて体重をかける。

持ち上げられた顔をかわいいと思うけれど、今の俺にはそれよりも、僕の彼女をたぶらかす悪女のイメージが先行する。

「ちょっと我慢してね」

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