キミには言えない秘密の残業
散々だったあの日から立ち直ることが出来たのはボロボロになったあたしに手を差し伸べてくれた人がいたから。


その人はバイトの先輩。きっとその人が男性だったら恋に落ちてただろうな。



就活もろくにせず、大学にも行かなくなった一人暮らしのあたしの部屋に大きなキャリーバッグを引いてやってきた先輩はその日から住み込みであたしが立ち直るまでずっとそばにいてくれた。


時には厳しい言葉も言われたけれど先輩には感謝してもしきれない。



苦い思い出が蘇ったと同時にこれ以上、須永があたしと同じような思いをしなければいいのに。


余計なお節介だけどそう思った。



でも、須永にそんなことを言っても聞く耳なんて持たない。分かる。自分がそうだったから。


あの頃のあたしは友達や先輩から何度も『別れろ』と言われても別れられなかった。


須永だってきっと伊東や他の人から別れたほうがいいって言われてるに決まってる。

だからあたしが考えたのは『残業』上司の権限を利用したやり方で仕事に私情を挟むのはやるべきことじゃないことも分かってる。


でも、『残業』なら誰も悪くない。そんな気持ちを抱きつつ、あたしは今日も須永に残業を告げた。
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