キミには言えない秘密の残業
お弁当とデザートを片手に部署に戻ると須永が机に伏せて寝ていた。珍しいこともあるな。


普段はすいませんとドアを開けると共にあたしに駆け寄ってくるのに。机の上に買ってきたものを置いてあたしから須永にゆっくりと近づいた。

目の前に立つと片手には携帯。見てはいけないと思いながらもつい見てしまった須永の携帯には『別れよう』の文字。


残業続きで須永は彼女に振られてしまったんだ。自分がそう仕組んだことなのに少しだけ罪悪感を感じる。でも、それと同時に・・・



「あたしだったらもっと大切にするのに」



口に出すつもりなんてなかった。つい、ほんのつい。そんな簡単な感じ。それなのにその言葉をしっかり聞いたと確信づいたように須永の瞳が開いた。


聞かれた。慌てふためきその場を離れようとしたあたしの腕を掴んで須永は真剣な眼差しをあたしに向けてきた。



「今の言葉、本当ですか?」



もちろん須永の問いかけには否定する。何のこと?なんてとぼけて掴まれた手を振りほどき、後ずさりをする。そんなあたしにゆっくり、ゆっくりと近づいてくる須永。お願い、来ないで。


ジリジリと追い詰められるあたしにとうとう逃げ場はなくなった。トンと背中がぶつかったのは壁。目の前には須永。


もう覚悟を決めるしかない。
身を隠すようにその場に蹲った。
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