愛すべき日々[掌編集]
それからすっかり私はこの店の常連だ。でも、こうなるのはきっと偶然でもなんでもなくて、宿命なんだと思う。
正直、マスターのことは何も知らない。けれど、一番大事なことは知ってる。
いつもいつも大事そうに持ってる、胸ポケットの写真、知ってるんだよ。気付いてないフリも大変なんだから。
洗ったコーヒーカップを布巾で拭き、マスターは木製の棚に手を掛ける。広くて大きなその背中。
「お父さん」
聞こえるように、わざと大きめに呟いてみる。
ガチャン。
マスターの手から、カップが滑り落ちた。
私、知ってるよ。
その口から真実を教えてくれるまで、いつまでも待つから。
マスターがチラリと私を一瞥して、微笑んだような気がした。
正直、マスターのことは何も知らない。けれど、一番大事なことは知ってる。
いつもいつも大事そうに持ってる、胸ポケットの写真、知ってるんだよ。気付いてないフリも大変なんだから。
洗ったコーヒーカップを布巾で拭き、マスターは木製の棚に手を掛ける。広くて大きなその背中。
「お父さん」
聞こえるように、わざと大きめに呟いてみる。
ガチャン。
マスターの手から、カップが滑り落ちた。
私、知ってるよ。
その口から真実を教えてくれるまで、いつまでも待つから。
マスターがチラリと私を一瞥して、微笑んだような気がした。