鈴が咲く【前編】
ものすごい突風に吹かれたようなのに、
体は微塵も動かない。動かせない。
「いやほんと…
主軸争いとかどうでもいいから
戻ろうとしてたんだけどね…」
俯き加減に右手でガシガシとこめかみを触る。
「なんで鈴が、
“味方”であるはずの聖林に傷つけられて疲れきって、
“宿敵”であったはずの妖鬼に救われて居場所をもらってんの?」
すぃ、っと首を動かして三人をみたらしい斗真。
三人が三人とも、ビクリと肩を揺らした。
「…夜召」
『はい。』
無声音で前に目を向けたままそう話し掛ける。
「ここにいる重傷者を、
キヨのいる本部まで連れていける?」
『勿論です。』
行きます、と無声音で告げた夜召が
近くにいた重傷者二人を脇に抱えて飛び立った。
「俺はさ〜…
主軸争いにも興味はないし、
勝手にやってろって感じではあるけど。」
斗真が話しながら
後ろ手をパッと振ったのを見て、動き出す。
時間稼ぎ…みたいなものなのかな……
その場から離れて、少し先にいる
守護術を未だに保ちながら
立ち上がれずに地に伏せたままの燈兜に近づく。