素直になりたくて~メイクに恋してあなたを愛す~
「ふふっ!!
素直でよろしい!!」




お母さんは満面な笑みで私を見てくれた。
涙で赤くなった目を優しく細めている。


お父さんも、お母さんも。
どうしてこんなにも温かいのだろうか。



目の前にいる橘部長のご両親の温かさに、私の胸はじわりと熱くなる。





「すまない、遅くなった」




静かで温かかった空間に、凛とした声が響きわたった。
誰のものか、なんて確認しなくても分かる。




「泰東?」

「お帰りなさい、橘部長!」




この中で、低い声を出すのは橘部長しかいない。
私は笑顔を浮かべ、橘部長に声をかける。


でも、決して橘部長の顔を見ることはしなかった。
だって私の目は今……涙で溢れている。


こんな顔を見せたら橘部長に心配をかけてしまう。



でも、私は橘部長の顔を見なければいけない。
きちんと向き合って謝らなければ……。


私は橘部長に最後まで協力することが出来なかった。
だから……。



顔を上げようとした時、それを遮るように大きな声が部屋に落とされた。




「慎吾!!
あなたね……お見合いしたくないからって夏香ちゃんを巻き込まないの!」

「……泰東……お前……」




お母さんの言葉で全てを察したかのように橘部長は疲れた顔で私を見てきた。
その顔を見ると罪悪感でいっぱいになる。

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