素直になりたくて~メイクに恋してあなたを愛す~
「すみません……私……ぜんぶ話しちゃいました」

「……お前な……」




橘部長の鋭い眼差しが私に襲いかかろうとした時。




「慎吾に夏香ちゃんを責める資格はないぞ!!
夏香ちゃんはこんな役まで引き受けてくれた挙句……お前の為に頭を下げてくれたんだぞ?」



優しい声が私を救ってくれた。
それははお父さんの声だ。


その姿は橘部長とダブってみえた。



「頭を……?」

「お前に見合いをさせないでくれって」

「泰東……」



お父さんの言葉を聞いた橘部長は驚いているように感じた。


私はまだ橘部長を真っ直ぐ見ることが出来なくて少し視線をずらしていたからよく分からない。
でも、声や顔がこっちを見ているのは分かる。




「夏香ちゃんに免じて見合いの話は無しにするが……。
お前もいい歳なんだから……そろそろ落ち着いてくれよ?」

「……分かったよ」

「よっし!!じゃあこの話はお終いだ!!」





お父さんは明るい声を出して笑顔を浮かべると、お母さんと一緒にどこかへと行ってしまった。
部屋には私と橘部長の2人きり。



罪悪感が残る私はどこか気まずい気持ちで溢れていた。


静かすぎる部屋の中で最初に口を開いたのは橘部長だった。




「泰東……ありがとな」

「え……」

「お前のお蔭で見合いをしなくてよくなった」

「そんなっ!!結果はともかく……私は橘部長との約束を守れなかったんです。
怒られる事はあっても……感謝して貰う資格は……」




“資格はない”。
その言葉は最後まで言えなかった。


突然と真っ暗になる視界。
肌に感じる温もりが私の頭を混乱させた。

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