素直になりたくて~メイクに恋してあなたを愛す~
「すみません」

「どうなさいました?」

「木山さんに……」




総務課につき近くにいた社員に話しかける。
初めこそ優しい笑顔を浮かべてくれた男の人だったが、木山さんの名前を出した瞬間に、その顔は歪んでいた。


おそらく……同情の目だろう。
同じ部署の彼でさえ、木山さんの事を苦手としているのだろうか。




「少々お待ちください……頑張って下さいね」




小声で最後の言葉を言い残し、彼は木山さんの元へと向かっていった。



『頑張って下さいね』
その言葉の裏にいったい何が含まれているのか、私には分からないが背中から嫌な汗が流れたのは分かった。




「これはこれは……またずいぶん若い社員だな……。
私にいったい何の用かね?」

「……資料を届けに参りました」




不審な顔で私を見る木山さんに笑顔を浮かべ資料を差し出す。
すると、その顔は更に歪んでいった。




「これは田辺という社員が届けるものではないのかな?
なぜ君がでしゃばってくるのかが私には理解できないのだが?」

「田辺は只今、手が離せない状態なので……」

「私も舐められたものだな?
こんな若い社員……それも女に届けさせるとは……」



大樹の気持ちが少しわかった気がする。
この人の言葉には1つ1つに棘がある。


深く気にしなければ大丈夫か……。
そう心に刻み込み真っ直ぐに木山さんを見据える。




「大変申し訳ございません。
次回からは田辺に……」

「いや構わんよ。
アイツはアイツで生意気な目をしているから気に食わないからな。
女の君の方がまだ価値はあるな……その綺麗な脚とかな」



木山さんの視線は私の脚へと向けられていた。
いやらしいその目つきに虫唾が走るが我慢はできる。


でも……。


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