素直になりたくて~メイクに恋してあなたを愛す~
「君と出逢った時はただ面白い子だってくらいしか思わなかった。
でも短い時間だが君を知るうちに……君に溺れていった。
まぁ……それに気が付く事が出来たのは夏香ちゃんが俺を怒ってくれたからなんだけど」



可笑しそうに笑う翔也さんの瞳には私が映し出されていた。



「俺を本気で怒ってくれたのは君が初めてだ」

「……翔也さん……」

「ありがとう」


翔也さんの笑顔に何も言えなくなり、彼の顔から目を逸らした。
私は……私が好きなのは橘部長だ。


だから……翔也さんの気持ちは嬉しいけど……。
受け止めることは出来ない。



「今は何も言わなくていい。
断られることは十分に分かってるからね。
だけど……僕は君を落としてみせるよ。
例え……誰が相手だろうとね」



翔也さんは立ち上がり、見下ろす様に橘部長を見ていた。
橘部長はただ無言で翔也さんを見ていた。



「……そうだ、夏香ちゃん」

「え?」


橘部長を見ていたはずの翔也さんが勢いよく私の方を向く。
そして……。


「あっ……」

「なっ……!?」



オデコに温もりを感じた。
その温もりの正体は……翔也さんの唇だった。


私と橘部長が驚く声なんて翔也さんには聞こえていないだろう。
悪戯っ子みたいな顔をして翔也さんは私と橘部長を見た。


「これは宣戦布告ってやつかな。
本当は、ここにしたかったけど……今はお預けかな?」



“ここ”と言って翔也さんは自分の唇を指した。



「……泰東!!帰るぞ」

「あ……はい」



呆然としていれば橘部長の低い声が私を現実に戻す。



「またね、夏香ちゃん、橘さん」



ひらひらと手を振る翔也さんを見ることなく橘部長は私の手を引っ張って歩き出していった。

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