素直になりたくて~メイクに恋してあなたを愛す~
数日が経った



「泰東、この資料を販売部に届けてくれ」

「はーい、分かりました」



オフィスで橘部長から資料を受け取る。
まるでキスなんかしていないかの様にお互いに振る舞っていた。


演じている雰囲気なんか一切なくて、自然に見えた。



橘部長は私の事を女として見ていないからキスをしても何とも思わないのだろうか。
それとも、あれは夢だったのだろうか?


ネガティブな思考に持ってかれそうになりながら、私は販売部に向かって歩き出す。



「やっぱ色気の問題……って何を考えているんだろう!!」



橘部長の事を考えると、私はどこかおかしくなる。
かなり重症なのかもしれない。
私の橘部長への想いは……。



「泰東?1人で何を騒いでいるんだ?」

「ぶ……部長!!」


真っ赤な顔をして橘部長の事を考えている時に、後ろから声を掛けられた。
それは私たちの部署の“元”部長だった。



「顔が紅いぞ?」

「な……何でもありませんよ!!
そうだこれを渡しに来たんです」

「あぁ。ありがとう」



私は恥ずかしさを紛らわす為に、押し付ける様にして部長に資料を渡す。
部長はそれを受け取りながら、何かを思い出したように私を見た。



「そうだ泰東、例の口紅な来月くらいには販売されるそうだ」

「本当ですか!?」

「あぁ……。俺たちも頑張るからお前も頑張れ。
お前は……この会社に必要な人間だ」

「部長……」

「……絶対にクビなんかにはさせないさ。
お前も……橘も……」



そう言って部長は販売部へと戻って行った。


……ありがとうございます。
部長があそこまで言ってくれたんだ。


私も頑張らなくちゃ、拳を作り意気込みながら私は体の向きを変え企画開発部へと足を進めた。

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