素直になりたくて~メイクに恋してあなたを愛す~
「水沢さん」

「橘さんはね!!夏香ちゃんが来ることを期待していつもギリギリまで注文をしようとしないんだ」

「……え……?」



翔也さんは不敵な笑みを浮かべて橘部長を見る。
橘部長はというと、片手で顔を覆いながら小さくタメ息をついた。



「橘部長……?」

「……たまたまだ」



橘部長の言葉に落ち込みかけた時、翔也さんの怪しげな声が橘部長の顔を紅めらせた。



「あれ?
じゃあ……夏香ちゃんが来なかった時、機嫌悪そうに何も食べずに出て行くのは何でかな??」

「そ……それは……」



真っ赤な顔で黙り込む橘部長に対して、翔也さんは楽しそうな顔をしていた。



「さてと……今日の所は大人しく退散してあげるよ。
夏香ちゃん、お礼……期待してるよ!!」

「翔也さん……」



翔也さんは私の耳元で囁くと、そのまま喫茶店を出て行った。
翔也さんって……意地悪な所もあるけど、凄く優しい人だ。


扉を見つめていれば、橘部長が決まりが悪そうに私を見ていた。



「水沢さんが言っていた事だが……」

「……たまたま……ですよね?」

「……あぁ、たまたまだ」



橘部長の真っ赤な顔を見て私は穏やかな気持ちになった。
これも……翔也さんのお蔭だ。
だから……少し勇気を出して進んでみよう。
そう思い、私は口を開く。



「ふふっ……橘部長、私……ここに来ますよ。
きっと……毎日でも」

「……そうか」



静かな空間が喫茶店を包み込んだ。
目の前にいる橘部長は優しい顔をしていた。

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