素直になりたくて~メイクに恋してあなたを愛す~
翌日



「……え……」

「……落ち込むな。まだ始まったばかりだ」

「……はい」


私は橘部長に励まされ、自分のデスクへと戻って行く。
始まったばかり……か、確かにそうなのだけれど胸の痛みは消えない。



私が落ち込んでいる理由。
それは、口紅の売り上げが思うように伸びないという報告を橘部長から受けたからだ。


初日の売り上げは僅か数個。
初めて作った自分の商品だけに悔しさが滲みだす。



「大丈夫だって!
まだまだ時間はあるからよ!!」

「大樹……」


デスクで項垂れていれば大樹が私の背中を軽く叩いてくれる。
大樹の笑顔を見ると、少し元気が出るものの、やはりショックなのには変わりはない。


少し屋上に行こう……。
このままじゃ仕事が手につかない。


そう思い、静かに立ち上がりオフィスを後にした。


1歩1歩。
屋上に近づく度に涙がこみ上げてくる。


そして屋上についた瞬間に、私の涙はコンクリートへと吸い込まれていった。



「っ……」



胸の中に何かがこみ上げてくる。
悔しさや、悲しさ、不甲斐なさ。
全ての感情が涙に変わっていく。



この会社に入って、夢を叶えるために一生懸命やって来た。
中々、芽が出なかった私にチャンスをくれた橘部長。


ずっと私を応援してくれて、一緒に頑張ってくれた大樹。
少し、すれ違っちゃった事もあったけど、優しい佐藤せんぱい。

今までずっと一緒に働いてきた部署の皆。
そして……私と橘部長に商品化のチャンスをくれた元部長。


沢山の人の想いがいっぱい詰まった口紅。
……このままでは……皆に顔向けができない。


でも……もうどうする事も出来ない……。



「……やっぱりここにいたのか」



呆れた様な声に上を見上げれば、涙で霞む視界に私の愛しの人が映りました。


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