素直になりたくて~メイクに恋してあなたを愛す~
「部長!!」

「泰東!?いきなりどうした!?」



屋上を出てすぐに私は、自分の部署には戻らず販売部に来ていた。
私の姿を見た部長は一瞬だけ驚いた顔をしたが一気に哀しみの顔に変わっていった。


「あの口紅は……」

「知っています。売れてないんですよね」

「あ……あぁ」


私の言葉に目を丸くしながら、戸惑う様に返事をしてくれた。
そんな部長をお構いなしに私はまくしたてる様に言葉を投げる。


「どうやったら売れる確率が上がりますか!?」

「は?」

「自分の手で最後まで面倒を見たいんです。あの商品だけは!!
例え最後でも、あれだけは……」

「……」


部長は黙ったまま私の話を聞いてくれる。
販売部の人たちも黙ったままこっちを向いている。


「無理を承知でお願いします!!
私にも売る手伝いをさせてください!!」


本来なら、違う部署の人間が乗り込んでくるなんてご法度だ。
でも、どうせ最後なら……思いっきりやって後悔した方がずっといい。


何もしないで逃げるのはもう嫌だから。
私は真っ直ぐに部長を見る。



「変わったな……泰東」

「え?」

「昔のお前だったら会社の意向に従ってただろう?」

「……そうだと思います。
でも……ある人が……橘部長が私を変えてくれたんです!!」


素直になる大切さを教えてくれた橘部長。
その橘部長に最後まで顔向けができる様に、私はもう立ち止まらない。

その熱い想いが伝わったのか、部長は軽くタメ息をついた。
でもその顔は笑顔に包まれていた。


「分かった、一緒にやるぞ泰東!」

「ありがとうございます!!」


部長にお礼を言うと、販売部の皆も一緒になって騒いでくれた。
一致団結した私たちは同じ目標に向かって進みだした。

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