素直になりたくて~メイクに恋してあなたを愛す~
翌日


電車に乗り込めば、いつもと同じ場所に橘部長はいた。


「おはようございます」

「おはよう、泰東」


無表情で挨拶を返してくれる橘部長の横に、すっかり慣れた様に私は立つ。
しばらくして、ゆっくりと電車が動き出した。

それを合図にするように私は口を開く。


「昨日は、ありがとうございました」

「……何の事だ?」

「……大樹と佐藤せんぱいに訊きました。
……本当に橘部長は優しいです」

「……大人をからかうんじゃない」


照れたように顔を逸らす橘部長に私は再びお礼を言う。


「本当にありがとうございました。
橘部長がいなかったら私……後悔する所でした」

「……それはこっちの台詞だよ」

「え?」

「……何でもない」



橘部長は優しく微笑むと、ゆっくりと私の方を向いた。
そして小さな声で、ハッキリと言葉を刻んだ。


「お前に出逢えて良かった」


その言葉が、私の心臓を鷲掴みにする。


知っていますか?
橘部長のその笑顔や、何気ない言葉が私を溺れさせているって。


これ以上はハマってはいけない。
頭ではそう理解しているのに、私は奥底まで沈んでいく。


理屈じゃないんだ……恋は。

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