素直になりたくて~メイクに恋してあなたを愛す~
「ここからはお願いできるかな?」

「はい」

「じゃあ先に戻ってるね?何かあったら呼んで?」

「ありがとうございます」


マコさんを寝室の前まで運ぶと翔也さんは私に託して去っていった。
翔也さんの優しい笑顔を見ると元気になれる。
そんな事を考えながらマコさんを連れて寝室に入る。


「……ん……?夏香?」

「あ……起きましたかマコさん?大丈夫ですか?」

「だーい……じょうぶに決まってるだろ~?」


まだ酔いが醒めていないのかテンションが高いマコさんにバシバシと背中を叩かれる。
マコさんがこんなに酔うまで飲むなんて珍しい。
何度か一緒に飲んだことはあるけど、マコさんはお酒が凄く強くて飲んでもいつもと変わらない格好良いマコさんのままだ。
だから何かあったのではないかと少し心配になる。


「どうかしましたか?なんか様子がおかしいですけど」


私が尋ねればマコさんは笑いながらベッドに崩れ落ちていった。
そのまま布団に抱き着くようにして顔をうずめている。


「マコさん……」

「周りの連中がさ……みんな結婚して幸せそうに笑っていたんだ。
若い頃は1人の方が気楽だと思っていたよ。結婚なんてクソくらえって感じでさ~」


声は明るかったが無理やり元気を出しているようにしか見えなかった。
ベッドの近くに腰を掛けマコさんの背中を撫でようとしたがその動きはピタッと止まった。
まるで壊れた玩具みたいに私の体は動かなくなる。


「だけど最近……凄く寂しいんだよ。
橘と再会してからは特に……アタシは本気でアイツの事……好きなんだよ……」

「……っ……」


マコさんの想いは彼女から聞いていたし知っていたことだ。
だけど……改めて言われると凄く……辛い。

ここで“私も橘部長の事が好き”と言えればどんなに楽だろうか。
でも、そんな事言えない……マコさんの想いを知っているのに言える訳がない。
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