素直になりたくて~メイクに恋してあなたを愛す~
「……泰東」

「……っ……」


低い声。
私の大好きな声が聞こえた。
でも……今は聞きたくなかった。
だって……涙が溢れ出てきちゃうから。
そう思ったときには遅かった。

目からは一筋の涙がゆっくりと頬へとつたった。


「泰東……?」

「すみません……用事を思い出したのでお先に失礼します」


顔は直ぐに逸らしたものの確実に涙は橘部長に見られてしまった。
驚いた彼の顔が頭から離れない。

私は急いで外へと走り出す。


「泰東!」

「夏香ちゃん!」


後ろから2人の叫び声が聞こえたけど私は無視して走り続けた。

外へ出てしばらく走り続けたが体力が尽きたわたしはその場にしゃがみこむ。
人が誰もいない公園で私は1人空を見上だ。

ムカつくくらい綺麗な夜空が私を見下ろしていた。
キラキラ輝く星たちが私を嘲笑う様に見える。

被害妄想も甚だしいと思いながらも空を見ているのが辛くなった私は両手を地面につきながらなだれ込むように座った。


橘部長……。
目を瞑っても浮かぶ彼の顔。
私はもう引き返せないほど彼の事が好きだったのだ。


「重症……」


自嘲気味に笑う私はなんて醜いのだろう。
初めは彼の仕事への熱意に憧れていただけだった。
なのに……どうしてここまで堕ちてしまったのだろう。

私と橘部長とでは住む世界が違う。
ずっと大人な彼にとっては私は……ただの子供だ……。
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