素直になりたくて~メイクに恋してあなたを愛す~
「おはようございます……ってあれ?」


橘部長とオフィスに入ればそこには誰もいなかった。
いつもは誰かしらはいるのに……。
静まり返ったオフィスに戸惑っていれば『せーの』と小さな声が聞こえた。
それと同時にパンと激しい音が鳴り響いた。


「夏香!橘部長!!
おめでとうございます!!」


紙吹雪が舞ったと思ったら皆が次々と姿を現した。
大樹や佐藤せんぱいたちは笑顔で私たちを見ていた。
手にはクラッカーが握られていた。
さっきの音の正体はこれか。
驚きながらもみんなの笑顔を見れば嬉しくなる。
それと同時に哀しみがこみ上げてきた。


「っ……泣くなよ夏香!!
せっかく盛り上げようと頑張って……」


大樹の声は震えていた。
その目には涙が浮かび上がっていた。
周りを見れば先輩たちの目にも涙があった。
皆……無理して盛り上げてくれたんだ。
私たちが出て行きやすいように……。

そう思うと涙が止まらなくなった。
笑顔でお別れしたかったのに……そう思いながら泣いていれば急に視界が真っ暗になった。
周りが騒がしくなったのが分かった。
一体何があったのだろうか。


「夏香」

「大樹……?」


耳元で聞こえてくるのは大樹の声だった。
もしかして私は大樹に抱きしめられているのだろうか。


「俺さ……ずっとお前が好きだった!」

「え……」


大樹はオフィス中に広がる様に声を発した。
その言葉に私だけではなく皆、驚いていた。


「本当は無理やりにでもここにいさせたい。
ずっと俺の傍にいて欲しい」

「大樹……」

「でも……俺はお前の笑顔が好きだから……。
俺の隣じゃなくても、ずっと……夏香が笑っていてくれるならそれでいい」


そう言って私を離すと大樹は最高の笑顔を私に向けた。
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