君への距離~僕らの未来~
車を止めて、また杏を抱えて外に出る。
杏は目を見開く。
「…競技場?」
「そうだ!
お前の高校最後の引退試合が残ってんだ!」
杏はここで初めて暴れた。
俺はかまわずそのまま競技場の中に入って、
短距離走のコースのスタートラインに杏を下ろした。
「ほら、位置について…」
杏は俺を睨みつけながらも、
きっと体は走りたくてたまらないんだろう
必死で立ち上がろうとしている。
「ぱんっ!!」
手で鉄砲を作ってスタートの合図。
杏はおぼつかない足取りで前に進み始めた。