FULL
「本当は今日、早く終われそうだから食事でも、って思ってたんですけど。我慢します。
風邪はひきはじめが肝心、って言いますからね」
ずるい。
なんてこと言うの。
今日に限って、そんなこと言わないで。
「風邪なんかじゃ、ないよ。ただ、ただちょっと……」
恋人同士になって三ヶ月。
それでもお互い忙しくて、恋人らしいことなんてしてこなかった。
二人で並んで歩くことも、食事も。
数えるほどしか。
だから。
藤島くんの唇の感触も、指の動きも、体温も。
私は知らない。
今朝の夢はリアルだったけれど。
与えられた熱は、藤島くんのものではなくて。
きっと、むかし手に入れた、誰かとの熱。
だから。