好きじゃないならキスするな!…好きならもっとキスをして。
「……こういう待ち伏せみたいなこと、もうしないで」

「一緒に帰ろう」

「話聞いてる!?」

一緒になんて帰らないよ! 帰る方向逆だし! こんなところで私なんかに執着してる時間があるなら、仕事でも探した方がよっぽど有意義だと思うんですけど!? ……さすがにそこまでは言わないけど。


私が頑なにその場から動かないでいると、俊は眉間に皺を寄せて、私の右腕をグイ、と引っ張った。

痛っ……。力なんてなさそうな外見なのに、やっぱり男子だ。俊の指が私の腕に食い込む。

私の体重が体型故に小学生並みに軽いこともあり、私は俊にずるずると駅の中へ中へと引きずられていく。
お兄ちゃんに引っ張られていく妹、みたいにしか見えないのだろうか、周りの人は誰も私たちを気にしない。


その時だった。

グイッ!と、俊に引っ張られるよりも強い力で、うしろから誰かに左腕を引っ張られる。体重はうしろに傾いて、反動で俊の手も私の右腕から離れた。


うしろを振り向くと、そこにいたのは課長だった。

課長はじ……っと俊の方を見つめて、そして言った。



「今、こいつ、俺と付き合ってるから、そういうのやめてくれる?」


……え?

「……なに。ほんとなの? 章子」

俊が私に聞いた。

えと、えと。急なことに頭が回らないけど、これは、課長が私を助けるために言ってくれてるんだよね。なんでここにいるのかは分からないけど、今はそれは置いておいて、せっかくだし、課長に合わせた方がいいよね。


「そ、そう。今はこの人と付き合ってるの」
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