好きじゃないならキスするな!…好きならもっとキスをして。
食事中も課長は普段通りで、仕事の話とかなにげない近況とかを話していた。一方私は、相変わらずモヤモヤが晴れず、いつもより口数も少なかったと思う。なんというか、課長とご飯を食べていてもいつもより楽しめなかった気がする……。べつにそれを露骨に態度で表していたわけじゃないから、課長が私の態度についてなにか言ってきたりはなかったけど。

食事を終えると、また電車に乗り込む。こっち方面の電車って普段あまり乗らないな。今日は空いてるけど、いつもはどうなのかな。いつも空いてるのかな。なんてどうでもいいことをぼんやりと考える。

……そんなことを考えていないと、ふとした瞬間につい聞いてしまいそうだった。
自殺を図った女の子と付き合ってた、って本当?と。
そんなの興味本位で聞いていいことのはずがない。だけど、ただの興味本位で聞きたいわけじゃない。

じゃあなんで聞きたいんだろう。


……課長の、ことだから、だろうか?


「おい」

でも、私が課長のことにそこまで踏み込んでいい関係じゃないだろうし。踏み込んだって、課長は嫌がるだろうし。


「……おいって」

私が課長のことをあれこれ知る権利はないってことだ。
でも、権利とか、義務とか、そんな小難しいことごちゃごちゃ考えるほどの難しい関係なんだろうか、私たちは。


「おいったら! 目開けたまま寝てんのかお前は! 次の駅で降りるんだから準備しろ!」

突然、右隣に座っていた課長に肩を掴まれ揺すられる。


「はっ」

「はっじゃねー」

イライラしている。私が考えごとをしてる最中、ずっと呼びかけてくれていたみたいだ。


「ごめん」

「ったく。なに考えてた」

「え。課長のこと」

「んなっ……」
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