好きじゃないならキスするな！…好きならもっとキスをして。

青田さん

その名前を発した課長の声に反応して、私は玄関の方へ目をやった。でも、ここからじゃ玄関が見えない。ここで私が出ていったら不自然だし……仕方がないので、私は課長たちの会話に耳を傾けた。


「どうしたんだよ、急に。ていうか……退職ぶりだな。久しぶり。元気だったか？」

「うん。元気だった」

「そうか。ならよかった」

玄関の方から聞こえる女の人の声は、静かで落ち着いた、とても女性らしい声だった。

それだけじゃなくて。
課長の声も。私と話す時よりずっとずっと、今まで聞いたことのないくらいに、優しい声だった。


「今日は、どうした？」

「近くまで来る用事があったから」

「そ、そうか」

こんな偶然ってある？　ちょうど私が青田さんの話をした直後なんて。しかも退職ぶりってことは、もう二年以上会ってなかったんでしょ？

驚いたけれど、私は黙って会話を聞いていることしかできない。


「……話したいこととかたくさんあるんだけど、上がってもいい？」

「え、えと……」

あーあ。困ってる。仕方ない。帰るか。私は立ち上がり、部屋の隅に置いておいたバッグを手に持つ。