好きじゃないならキスするな!…好きならもっとキスをして。
二十分も経たないうちに、玄関の戸が開き、課長が帰ってきた。

「ただいま」

「もういいの?」

「なにが? ちゃんと駅まで送ってきたけど」

「それはそうだろうけど……」

会話しながら、一緒にテーブルの前に座り直した。


……もっと、いろいろゆっくり話すことがあったんじゃないかな。とくに、青田さんは。


「……私が待ってるから気遣って早く帰ってきた?」

「え?」

「……また後日にふたりでこそこそ会う約束するくらいなら、今日ゆっくり話してくればよかったのに」

……ああもう! なんでこんな言い方しかできないかな、私! ただ単純に、「ふたりの関係が気になる」って言えばいいだけなのに。それに、青田さんのことは私だって心配だし、課長が青田さんと会ってどう感じたかだって気になるし……。思ってること、感じてること、不安なことを素直に口に出せばいいだけなのに、それができなかった。

そんな私に、課長は。

「……フッ」

「なっ、なんで笑うの!」

「なに。ヤキモチやいてんのか?」

「んなっ」

ヤ、ヤキモチ? そ、そうなのかな。……そうなんだろうな。

「最近は元気か? 今の職場は楽しいか? 駅に行くまでの間に、改めてそれは聞いた。それだけ聞ければ充分じゃないか?」

「で、でも向こうはわざわざ会いに来て……」

「用事のついでに寄っただけって言ってたし。向こうからも別になにも言ってこなかったし」

「……」

「言っただろ。俺とアイツは、別にそういう関係ではないんだよ」

ていうかそんなことより、と言って、課長は立ち上がった。そして、私の隣に座り込むと――ギュ、と突然、私を強く抱きしめた。
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