好きじゃないならキスするな!…好きならもっとキスをして。
「ここでいいのか?」

「う、うん。あ、いや、ハイ」

私が答えると、課長は金庫の中の所定の場所に、ひょいっと硬貨袋を綺麗にしまってくれた。
棚の二段目に入れることになってるから、この重い袋をこの棚に入れるのはいつもかなり厳しい仕事だ。だから、本当に助かった。


「ありがとう、ございました」

「今は、誰もいない」

「…ありがと」


周りに誰かいたって、普段仲がいいからついタメ口になってしまうことは付き合う前からあった。
本当はそんなのダメだけど、この職場は皆が皆と仲がいいから、周りの人たちもそんな感じで、誰にも注意されたことはなかった。
でも、私たちの関係が周りに知られないようにしないと、と注意すれば、たどたどしい、変な敬語になってしまっていた。
けど、今は二人きりということで、何の意識もせずに普通に話していいんだ。


…そうは言っても仕事の真っ最中だ。これからお昼に行く時間とは言え、私語は慎んで早く食堂へ行こう。


課長にもう一度お礼を言って、軽く頭を下げながら課長に背を向けたその時、


「…青田に、会ってきて、いいか」

課長がやや言いにくそうに私にそう言ったので、私は足を止めて課長に向き直った。
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