好きじゃないならキスするな!…好きならもっとキスをして。
かといって、別に仲が悪いわけではなく。

「そういえば、モモ。S物産への振込関係の書類、後で渡してもいいか。今日の二時までに処理してほしいやつなんだが」

美希ちゃんが給湯室を出て行った後、私がさっき淹れたコーヒー(濃くはしていない)を飲みながら課長が言う。


「ああ、良いですよ。すぐにできますから」

「悪いな。お前に頼むのが一番正確だからな」

……課長は、なんやかんやで私をよく頼りにしてくれる。私も、仕事のできる課長のことを結局頼りにしてるし、困ったことがあればちゃんとフォローしてくれるいい上司だ。

こうやってお互いに口が悪いのは、別に仲が悪いからじゃなくて、お互いに気が強い性格だから、とか、むしろなんでも言い合えるくらいに気を許した関係だから、って感じ。
そんな課長は独身だ。彼女もいないらしい。課長と結婚したいと思ってる女性社員は結構いるって噂をよく耳にする。課長との距離が近い私は、たまに周囲から「付き合っちゃえばいいのに」とか言われる。確かに、課長と付き合ったら楽しいかも、なんて思うこともある。だって、思ったことをなんでも言えるし、隠しごととかもしなそうだし。


でも、実際に付き合ったりとか、それはないな。だって、課長と私は十歳も離れているし、そもそも私は、彼氏がいるから。
< 8 / 226 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop