【短編】ベールを脱ぐ
「素直に言えば? セックス大好きのエロ女だ、って」
男……久住は片方の眉を上げて意地悪に笑った。
久住と知り合ったのは、1ヵ月前。上司のお供で訪れた会社。商談用の個室で先方の人間は数人いたのだが、その中に久住はいた。年の頃は30代前半、優しく微笑む彼にひと目で惹かれた。プレゼンは成功し、その後の事務処理は私と久住の担当で何度か書面やメールのやり取りをした。メールの返信も早く、電話の応対も丁寧で、久住が客なのに、その繊細さにこちらが萎縮してしまうほどだった。
今日、先方のミスで書類をもう一度作成することになり、印鑑をもらうのに再び訪れた久住の会社で久住と再会した。
久住はロビーで不手際を丁寧に詫び、個室に案内すると、さっきまで浮かべていた笑みを甘いマスクから消した。私の差し出した書類に判を押した。そのとき私の指に触れたのはワザとだ、と気付いた。
手間を取らせたと食事に誘われ、私はワインに頬を赤く染めて、久住の前では少女を演じた。
勿論、このいかがわしいホテルに来たあとも、シャワーを浴びたあとも。
なのに。