『冴えない夜も二人で…Ⅱ』
「俺に声を掛けてくる女子社員は俺を社長の息子だと勘違いしてるんですよ。
これは秘密なんですが…
俺の同期に社長の息子がいます。
苗字が一緒だったから席が近くて研修先で仲良くなりました。
社長の息子とは…大分経ってから聞かされたんですけどね。
『俺よりおまえの方がおやじ(社長)に似てるわ!俺は母親似だからさ…
もしこの事が漏れて何処かの支社に息子がいるらしいって噂になったら
おまえが息子と勘違いされそうだな… 』ってアイツが言ったんです。
それからある事をお願いされました。
『もし誰かがおまえに社長の息子なのかと聞いてきたら否定しないで答えられないと濁してくれないか?
社長の息子に取り入ろうとする輩(やから)には捕まりたくないんだよ!』って
だからアイツとの約束通りにしていたら…勘違いした女子社員に誘われるようになっただけです。
彼女たちは俺と付き合いたい訳じゃない…
社長の息子と付き合いたいだけだから…」
「…そっか…大変なんだね…」どこかホッとしている私がいる。
「ホントは直ぐにでも俺は社長の息子じゃないって言ってしまい気分だったけど、先輩が気にしてくれて嬉しいなぁ~」とニコニコの彼
「そっ…そんなことないから…」でも顔を赤らめて言いよどんでいた。
「先輩…顔が赤い」
「酔っただけよ」なかなか素直になれない私
「先輩、前に言ってましたよね?『私、アルコールが入っても赤くならないの…飲み過ぎたら青くなるだけよ』って」悦に入っているのか?今日の彼はいつもと違う。
もう今日は口で勝てそうにないなと思い「トイレに行ってくる」そう言って席を立った。
トイレの鏡で自分の顔を確認するとやっぱり赤くなっている…今までビールを飲んで赤くなった事なんてなかったから自分でも驚いた。
もう彼を好きなんだと認めても良いのかも知れない。