『冴えない夜も二人で…Ⅱ』

トイレを出て直ぐにドアマットが捲れているのに気が付いた…

これにヒールでも引っ掻けたら転んで怪我する人がいるかも知れないそう思い

行儀は悪いけど足で捲れを直そうかな?そう思って下を向いていたらいきなり腕を掴まれて見覚えのあるジャケットが私の視界を塞ぐ

あまり広くもないトイレ前の通路で壁を背にして彼に体を覆われている状況に唖然とする。

今好きだと認めたばかりの人にされるのには余りにも恥ずかしいシチュエーション

それなに不覚にも心拍数は急上昇で胸は早鐘を打っている。

こんなに彼…背、高かったけ?とか匂いが好みで良かったとか…頭の中にどうでもいい情報を瞬時にインプットしていく。

それでも恥ずかしさが最高到達点に達した私は本来の自分を取り戻した。

「…だから前から言ってるでしょ!私にヒロイン願望はありません『壁ドン』なんてありえない」そう言って短い距離にも関わらず、彼のみぞおちに下から拳を突き上げる。

「いってーーーあぁ~小説みたいにカッコ良く決まらねぇー」と私から離れた彼が痛みに顔を歪ませ擦っているのはお腹ではなく背中だった。

彼が離れたことで見えたのはかなり大柄な人がトイレの前で倒れている姿。

「ごめんなさーい」と駆け寄って来たのは倒れている彼の関係者なのか?とても小柄な可愛らしい女性だった。

背中を擦りながら痛がる彼にペコペコと必死に謝りながら「もう…ハルしっかりして!」と体の大きな彼を慌てて引っ張り起こす。

「佳乃…俺も痛い…」甘えた声を出して自分の額を擦る彼はウルウルとした瞳でほっとけない大型犬のような風貌
2人の身長差は軽く30cmは超えていそうに見えた。

「ハルは自業自得でしょ…もう少しでお姉さんを潰しちゃうところだったんだよ」

彼女の言葉でそっか…

ドアマットに気を取られてたからハルと呼ばれた彼に気が付かなくて潰されそうだったのかとあの状況を漸く理解した私。
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