置いてゆく
幼馴染み、という単語に祐司さんの顔が渋くなる。本人がそれを自覚しているのかしていないのかは分からないけど、少し離れた位置にいる私からは彼の様子がよく見える。
祐司さんはきっと、その言葉が嫌いだ。
姉さんと祐司さんは小学校の入学式で母親同士が仲良くなったのをきっかけに知り合った幼馴染みだった。
姉さんの後を追う私を二人は受け入れてくれたけど、私は彼らの一員になれたとは少しも思っていない。姉さんはもちろんのこと、祐司さんも私のことを対等な友人としてではなく、守ってやらなければならない妹としか見ていなかったからだ。
なにより、祐司さんは姉さんのことが好きだった。おそらくその入学式の日、初めて会った時からずっと。彼の中で占める私の割合など、姉さんに比べれば笑ってしまうほど小さなものであったのだろう。
「……やっとか、って思った」
しばらく黙りこんでいた祐司さんがぽつりと呟く。見れば、どこか宙を見つめるようなぼんやりとした表情を浮かべており、今ここにはいない姉さんのことでも考えているのだろうと容易に想像できた。
どこにいても何をしていても祐司さんがまず考えることといえば、姉さんのことだったから。